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戦争で息を吹き返す、「犠牲者を前提とした資本主義」にどう抗うか 小説家が伝統工芸に託したものとは

日本の金融市場は乱高下を繰り返している(AFP=時事)

日本の金融市場は乱高下を繰り返している(AFP=時事)

 ロシアのウクライナ侵攻に端を発した戦争は、いまだ終着点が見えぬままだ。侵攻したロシアへの非難は言うに及ばず、日本をはじめ世界中から嘆きや戸惑いの声があがっている。21世紀の今、なぜ20世紀以前のような国家間の戦争が繰り返されているのか──。金融資本主義が支配する世界に“抵抗”し始めた天才ハッカーを描く『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』(中公文庫)が話題の小説家・榎本憲男氏が綴る。

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 戦争が始まってから約2か月が経った。テレビのニュースでは毎日ウクライナの戦況が伝えられている。まさか戦争など起こるはずがないと思っていた日々は、戦争が海の向こうで起こっていると意識させられることで、暗い通奏低音を断続的に聞き続ける日々へと変わった。

 核兵器を持った人類はもう戦争を起こすわけにはいかなくなった。ならばまもなく資本主義は終わる、と論じるエコノミストもいる。例えば、法政大学教授の経済学者・水野和夫氏は金利に着目しつつ、著書等で以下のように説く(ものすごく粗い要約であることを先にお断りしておく)。

 資本主義になにより必要なのは、資本を投下する市場と金利だ。金利というのはほぼ資本利益率、潜在成長率に一致すると考えていい。資本主義は金利が許されるようになって始まった。資本主義経済の歴史は、新しいマーケットの開発に着手した当初は金利も8%から10%くらいと高水準だが、やがてゼロへと向かった。人類の経済はおおむね低金利状態にあったと言っていい。低金利状態というのは資本を投下しても利潤を得ることができないこと、ほとんど成長しないないということを意味する。いわば恒常的なデフレである。

 デフレから抜け出すためには、とにもかくにも新しい市場が必要だ。しかし、人類はあっという間に陸の市場を開拓しつくし、次には大海原に乗り出して新大陸を開発し、そこをしゃぶりつくした後は、延命策として情報空間に乗り出してレバレッジを効かせた金融資本主義を展開した。しかし、その目論見もリーマン・ショックではじけ飛んだ。万事休す。

 しかし、戦争を起こせるのなら話は別だ。歴史をつぶさに見ていくと、金利は右肩下がりにゼロに向かうのだけど、例外的に金利がぴょんぴょんと跳ね上がる時期がある。それが戦時である。奇しくも『21世紀の資本』(みすず書房)でフランスの経済学者、トマ・ピケティはこんなことを書いている。

〈20世紀に過去を帳消しにし、白紙状態からの社会再始動を可能にしたのは、調和のとれた民主的合理性や経済的合理性ではなく、戦争だった〉

 つまり、20世紀の資本主義は、戦争でガラガラポンをして、格差を是正しリセットできたと言っているに等しい。戦争はガラガラポンを起こすから資本主義のカンフル剤となりえたのだ。

  

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