7月10日に投開票となる参議院選挙。物価は上がるのに、賃金は上がらない現状を、政治家はどう打破しようと考えているのか。自民党は、改正した「賃上げ促進税制」や岸田首相肝入りの「一億総株主」を経済政策の目玉として掲げているが、その有効性を疑問視する声は少なくない。経済評論家の加谷珪一さんは、岸田内閣の本当の目玉政策は、株ではなく「人への投資」だと見る。
「先日閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる『骨太の方針』には、これから230万人のIT人材を育成するために、ビジネスパーソンのスキルアップやスキルチェンジの支援をするとあります。これは、天才エンジニアを育成しようという革新的な取り組みではなく、諸外国ではごく当たり前のITスキルや情報システムに投資しようとしているに過ぎません。
日本のIT投資は諸外国と比較すると壊滅的状況で、過去30年間ほぼ横ばいです。もし、これが実現すれば、労働者の賃金アップにつながる。生産性が上がり、企業の業績もよくなるでしょう。しかし、どうやって実現するのか、具体性は見えてきません」
日本人の生産性が低いことは、しばしば指摘されていたことだ。これを打破できれば、日本経済全体が好転する糸口になるだろう。だが、人材育成は長期的なプランのため、すぐに経済が好転するわけでも、暮らしが楽になるわけでもない。そもそも、国の景気がよくなったからといって、必ずしも私たちの暮らしもよくなるとは限らない。
本当に急ぐべきなのは、国家経済をよくすることよりも、いまこの瞬間に生活に困っている国民を救うことではないのか。同志社大学大学院教授で経済学者の浜矩子さんは、こう話す。
「政府の政策の重要な役割は、そもそも弱者救済です。にもかかわらず、自民党政権には、弱者救済という視点がまったく欠けています。例えば、この物価高でもっとも割を食っているのは、貧困層や失業者、ワーキングプアといった弱者です。公約集で『日本を守る。』とうたっている以上、彼らをどう守るか示すべきです。
黒田東彦日銀総裁が“家計の値上げ許容度も高まってきている”などとのたまっているように、いまの日本の経済政策担当者には危機感がありません」
一部報道では、岸田首相はアベノミクス路線から転換をはかるといわれているが、浜さんはまったく期待できないと言う。
「岸田首相は“成長と分配の好循環”という言葉を自身が唱える『新しい資本主義』の姿かのように言いますが、この言葉は、安倍元首相の使い古しです。岸田首相の経済政策は、“アホノミクス”と揶揄された安倍政権の丸パクリなのです」