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『東京貧困女子。』中村淳彦さんインタビュー 「貧困を消費するな」批判をどう考えるか

『東京貧困女子。』の第6巻。中村淳彦さんがこれまで取材してきた中でも3本の指に入る厳しい経験をした女性が描かれている

『東京貧困女子。』の第6巻。中村淳彦さんがこれまで取材してきた中でも3本の指に入る厳しい経験をした女性が描かれている

 その女性はアルコール依存症で、リストカットをくりかえしていた。生ごみや犬の糞尿、血のにおいがいりまじり、何かわからない液体が靴下に滲んでくる部屋で、中村さんは、いつ終わるともしれない彼女の独白に耳を傾けた。

「自分の話を聞いてくれる人に話したいという思いは誰にでもあります。ぼくは相手の話を否定しないし、身元が特定されるリスクがないとわかると、相手も話してくれますね」

 人は、聞く側が受け入れられる範囲でしか話さないものだと中村さんは言う。

「だってそうじゃないですか。不倫していて、すごく楽しいから誰かに話したいと思っても、不倫を否定している人には話さないですよね? そういうことです」

いまの若い女性は父親世代の男性を嫌っている

 ちなみに今回の取材は小学館の会議室で行われた。ソファで対面するかたちの取材はもっとも相手が話しづらくなるそうで、「ぼくが取材するときは、こういうところではしないですね」とのことだった。

 座る位置や取材場所、時間設定、ありとあらゆることを考え、話を聞くようにしているという。どうすれば相手の話を引き出すことができるかは、新著『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)にくわしい。

 漫画『東京貧困女子。』には、貧困女子を取材する、週刊誌(「週刊ポスティ」)の女性編集者が3巻の途中から登場する。「貧困ってのはエンタメになるんだよ」という上司の指示で不本意ながら取材を始めるが、現実を知って次第にのめり込んでいく。取材する側を相対化する視線も入っているのが興味深い。

「『貧困を消費するな』なんていうことは、ぼくなんかもずっと前から言われてきました。貧困を利用してコンテンツを作るな、面白がるな。そう言う人は常に一定数いますけど、同情して何もしないのと、コンテンツにしてでも可視化するのと、どちらがいいのか。それぞれに言い分があるとぼくは思います」

 中村さんが取材を始めたのはコロナ禍のずっと前だが、コロナ禍は、風俗で働く女性たちを直撃した。参入する女性は増えるが、得られる収入は減って、貧困の状況はますますひどくなっていることも漫画の中に描かれる。

 いま中村さんが「ひどいことになっている」と言うのは、大学生の貧困だ。

「学費が払えないのも、奨学金が返せないのも、貧困に苦しむ大学生がこれほど多くなったのは、すべて国の政策のせいです。この先、なんの成果ももたらさない貧困を延々と生み出していることについては、もっと問題にされないといけないと思う」

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