*14:50JST 栗田工業:水処理薬品及び水処理装置の製造・販売を国内外で展開、業界トップクラスの知的財産権を誇る
栗田工業<6370>は、水と環境に関する社会課題の解決を中核に据えた事業を展開する、国内外において高い評価を得ているリーディングカンパニーである。同社は1949年の設立以来、産業や社会インフラに不可欠な水処理の分野で幅広いソリューションを提供し続けてきた。事業セグメントは大きく「電子市場」と「一般水処理市場」の2領域に分類され、電子市場では、主に半導体や電子部品製造業向けに超純水供給サービスや水処理装置、メンテナンスサービスを提供する(2025年3月期売上構成比44.3%)。一方、一般水処理市場では電力、鉄鋼、食品、公共インフラなど電子以外の幅広い業種に対し、水処理薬品供給や装置、メンテナンスサービスを提供している(同55.7%)。また、地域別売上高構成比では、日本48.1%、アジア24.4%、北南米18.1%、EMEA9.4%。
同社のビジネスモデルは、水処理装置の販売にとどまらず、薬品供給や装置メンテナンス、さらに水処理プロセスの最適化支援といった一連のサービスを包括的に提供する「トータルソリューション型」であり、顧客工場において継続的にニーズが生まれるストックビジネスの要素を有したサービス事業の比率が高い点が特徴である。特に電子市場においては、長期契約による超純水供給サービスも展開しており、安定的な収益基盤と高い利益率の確保に寄与している。また、近年は「CSV(Creating Shared Value)ビジネス」を推進している。CSVビジネスは、従来に比べ節水・GHG排出削減・廃棄物の資源化または資源投入量の削減に大きく貢献する製品、技術、ビジネスモデルと定義しており、2025年3月期時点では96のモデルがあるという。量だけでなく質にもこだわっており、各モデルの提供価値が社会的側面だけでなく、顧客の利益に繋がることも重視し、定期的にモデルの優位性を審査しているほか、知的財産権での保護にも取り組む。
同社の強みは、単なる製品提供にとどまらず、薬品・装置・メンテナンスを一体的に提供できるサービス体制と、顧客との長期的な信頼関係の構築にある。そのほか、特許保有件数は国内水処理企業でトップクラスとなっており、2024年3月期時点では国内1,397件、海外1,181件となる。上場企業では類似企業としてオルガノ<6368>などが挙げられるが、栗田工業は特に、欧米を含めグローバルに有する事業基盤に加え、超純水供給サービスに代表されるような、水の入り口(超純水製造)から出口(排水処理・排水回収)までの工場全体の水処理を、装置・薬品・メンテナンスの包括的なソリューションとして提供できることに強みがある。近年ではDXを活用したエンジニアリング力の強化でも差別化を図る。海外展開にも積極的であり、欧州では水処理装置を扱うArcade Engineering GmbHを買収したほか、インドではKurita AquaChemi India Pvt. Ltd.を新設するなど、現地ニーズに応じた体制構築を進めている。
2025年3月期の売上高は408,888百万円、事業利益49,184百万円(同17.0%増)と堅調な伸びを示した一方、営業利益は31,275百万円(同24.1%減)で着地した。主な要因は、米国子会社Pentagon Technologies Groupの減損処理および米国フラクタ社ののれん減損による一時的な損失計上である。ただ、電子事業・一般水処理事業ともに堅調に推移しており、電子事業では装置の受注高は欧州向けの大型案件の獲得により増加、継続契約型サービスも新たな水供給案件の開始に加えて一過性の収益計上もあり受注高・売上高ともに増加している。一般水処理事業でも、装置の受注高は北米の半導体産業向け大型装置案件の獲得により増加、売上高も北米における半導体産業向けと官需向けの案件の装置の工事進捗が寄与した。継続契約型サービスもCSVビジネスの拡大が寄与した。CSVビジネスモデル数は同18件増加の96件に伸びている。
2026年3月期の売上高は425,000百万円(同3.9%増)、事業利益は54,000百万円(同9.8%増)、営業利益は535億円(同71.1%増)を計画。米国の関税引き上げによる影響は現時点で予測困難であり、今回の業績予想に反映していない。ただ、損失処理の一巡とともに、水処理装置の拡大と薬品需要の回復が収益拡大を後押しすると見られている。特に電子市場では、装置で日本と北米で大型装置案件の受注を見込む。一般水処理市場では、受注高・売上高ともに電子産業向け装置案件のセグメント移管の影響により減収を見込むが、CSVビジネスの拡大により増益を想定している。
市場環境としては、気候変動、水資源の逼迫、ESG投資の拡大といった要因により、水処理ソリューションへのニーズはグローバルに高まっている。特に半導体、EVといった成長分野では製造プロセスにおける大量の高純度水の使用が不可欠であり、これらの設備投資の増加は同社のビジネスチャンス拡大に直結する。また、新興国では経済成長とともに水処理インフラへの需要が着実に増しており、同社の海外展開戦略が収益源の多様化と成長加速に貢献すると考えられる。そのほか、世の中の環境課題への意識の高まりや企業のコスト管理意識の高まりはCSVビジネスの展開にも追い風となる。
今後の見通しとして、同社は中期経営計画「PSV-27」に基づき「社会課題の解決を通じた持続可能な成長」というビジョンのもとで事業展開を進めている。定量的な財務目標は、2028年3月期に売上高4,700億円(電子2,300億円、一般水処理2,400億円)、事業利益率16.0%、ROE12%以上で、同計画はこれまでの進捗と今後の戦略強化を踏まえて売上高計画を上方修正した数値となる。電子市場では装置を起点としたサービス事業のグローバルな拡大を目指し、精密洗浄事業の再生も行う。あくまで例だが、大型装置案件に続くサービス事業の売上高規模は、装置案件規模が200億円の場合、運転管理・薬品メンテナンスで10億円/年、精密洗浄2-3億円/年となる。一般水処理分野では、CSVビジネスの拡大がポイントとなる。CSVビジネス単体の2028年3月期売上高目標は1,000億円(2026年3月期予想555億円)。産業別×地域別にグローバルでCSVビジネスの浸透・拡大を図っていく。電子セグメントではグローバルなエンジニアリング力の強化、一般水処理セグメントではCSVビジネス拡大加速のための拠点獲得などに向け、M&Aも含めた成長投資も検討し、収益性の向上を優先して考えていくようだ。
株主還元では、長期的に計画的な増配を継続しており、直近5年間通算で配当性向30%か ら50%の範囲を目安としている。また、成長投資を優先しつつも機動的な自己株式取得も検討する。今後も社会的要請に応じた水処理ソリューションの高度化と、持続可能な社会の実現に向けた企業価値創造の進展が期待される。
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