不正行為を謳う中国カンニング業者に直撃取材(写真:イメージマート)
日本で実施される英語能力テスト・TOEICをめぐり、中国の「カンニング業者」が暗躍──逮捕者も出た事件が世間を驚かせたが、そうした業者の新たな“標的”がTOEFLだという。事件前に本誌・週刊ポストでいち早く中国業者のカンニング事情を報じたフリーライターの廣瀬大介氏が、TOEFLの“訪日カンニングツアービジネス”を手掛ける中国業者に接触した。【全3回の第3回】
日本や中東、アフリカが国際的カンニングビジネスの標的に
「TOEFL(トーフル)攻略・日本会場・返金対応あり」とする広告をSNSに投稿していた業者Aに続き、在宅試験での不正行為を謳う別の業者Bにも接触した。SNS上では〈TOEFL在宅試験監視カメラ攻略・会場型ゼロリスク〉と宣伝している。
この業者も会場型の場合はA社と同様、ホテルに宿泊させて答案を暗記させる方法だった。在宅受験の場合、業者が指定するシステムをパソコンにダウンロードすると、別の場所にいる解答役から答えが送られてくる手口で、試験前には予行演習が行なわれ、費用は1万元(約20万円)だという。
TOEFLの在宅試験は監視用カメラの設置が義務付けられるほか、試験前・試験中もカメラを通して厳しいチェックが行なわれるはずだが、業者は「絶対に安全だ」と自信をのぞかせた。
いずれも日本を含む複数の国で対応していると説明している。
A社に取材であることを告げ、違法性の認識について聞いたところ、以前の丁寧な対応が嘘のように、「今食事中です! 取材には応じられません!」と怒りを露わにしながら通話を切られてしまった。
B社には電話が繋がらなかったためチャットで同様の質問を送ったところ、ブロックされてしまった。
中国事情に詳しい周来友氏は、TOEFLにも広がる不正業者の存在についてこう説明する。
「日本ではTOEICの不正事件が発覚して注目されていますが、海外では以前から中国人業者が関与した不正事件が数多く報じられてきました。アメリカや韓国ではTOEFLで替え玉受験に関与した中国人留学生などが逮捕される事件も起こっています。そうした国は不正対策が強化されているため、日本などが新たなターゲットになっているのです」
TOEFLをめぐっては、イギリスで2014年に留学など滞在ビザ取得を目的とした大規模な組織的不正行為が発覚している。中国人を含む多国籍の受験生や試験関係者などが替え玉や、答案流出に関与したことが明らかとなった。
BBC(イギリス公共放送)による報道で詳細が明らかになると、イギリス内務省も調査に乗り出し、結果的に4万5000人もがビザ取り消し処分となっている。2015年には中国で出題予定だったTOEFLの試験問題が流出し売買される事件まで発生した。
不正業者と接触するなかで、試験の監視体制や罰則が厳しい国を避け、日本や中東、アフリカで国際的カンニングビジネスを展開している実態が見えてきた。そのターゲットにされている日本は早急な対策が必要だ。
【プロフィール】
廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身。フリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年帰国。フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報を発信している。
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※週刊ポスト2025年8月1日号