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快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた
BYD「RACCO」の本当の脅威

日本の牙城「軽自動車規格」に真正面から挑むBYD・ラッコは、やはり「黒船」なのか? これまでの自動車開発のサイクルを大幅短縮しかねない“独自のバッテリー技術”が満載

上陸とともに日本中に話題を提供し続けているBYD「ラッコ」

上陸とともに日本中に話題を提供し続けているBYD「ラッコ」

「BEV(バッテリーEV)一択による“脱炭素”」の流れに対する現実的な回答としてあるのが、トヨタをはじめとする国産メーカー勢が推進する「マルチパスウェイ戦略」。BEVだけでなくプラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HEV)、さらには燃料電池車(FCEV)など、地域別のエネルギー事情やインフラに合わせ、多様なパワートレインを用意することで対応しようという全方位戦略によって、脱炭素の議論は冷静さを取り戻しつつあるようだ。一方でBEV開発の最先鋒を走る中国メーカーなどの取り組みを踏まえた「BEVの現在地」は、やはり気になるところ。シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。今回は自動車ライター、佐藤篤司氏がいま注目の BYD「RACCO(ラッコ)」のステアリングを握り、レポートする。【前後編の前編】

スーパートールワゴン+両側電動スライドドアという、日本で最も支持率の高いセグメントにBEVモデルとして挑んできた「ラッコ」。フロントマスクはBEVらしく、大きなラジエターグリルなどもなく、すっきりとしたデザイン

スーパートールワゴン+両側電動スライドドアという、日本で最も支持率の高いセグメントにBEVモデルとして挑んできた「ラッコ」。フロントマスクはBEVらしく、大きなラジエターグリルなどもなく、すっきりとしたデザイン

日本の牙城「軽自動車規格」に中国メーカーが真っ正面から挑戦

 中国メーカー「BYD」が海外メーカーとして初めて日本の軽自動車規格に合わせて開発した乗用車タイプの軽BEVである「RACCO(以下、ラッコ)」。日本独自の規格である軽自動車市場への挑戦が日本人のプライドを刺激したのか、「黒船襲来」などとセンセーショナルに取りあげるメディアがあるなど、周辺はかなり賑やか。事実、7月28日のデビューから発売から約1ヶ月後の8月末時点で約1,500台に到達と、輸入車としては好調な滑り出しを見せている。確かに2022年に登場した日産「サクラ」が、発売からわずか3週間で1万1000台以上の初期受注を集め、現在までの約4年間で10万台を突破してきたという実績と比べれば少ないが、かといって決して侮ってはいけない数字でもある。そんな衝撃を日本の軽BEV市場に与えている「ラッコ」の実力をまずはチェックしたい。

 まず言いたいのは、中国EV大手メーカーであるBYDの「ラッコ」は想像を超える完成度ではありますが、決して「黒船」ではないということ。江戸時代末期に日本人が抱いた“得体の知れない恐怖”と同種の感情は、「ラッコ」を目の当たりにし、さらに走らせても湧いてきません。もちろんそれは「ラッコ」を侮り、軽く見ての感想ではありません。開発段階から日本の軽自動車や市場を取り巻く状況を謙虚に、実に良く研究し、軽自動車としての本質に従って、きっちり仕上げてあり、ライバルとして成立していることは、冷静に認めたいのです。

 一方、日本の現状を俯瞰すれば、軽BEVとしての本質的な評価の前に、イデオロギー論争や感情論が先行しているような状況が一部で起こっています。その根っこにあるのは、日本の牙城とも言える「軽自動車規格」に、中国メーカーが真っ正面から挑んできたことへの「拒否感」や「恐怖」なのかもしれません。

 事実、日本の自動車史において「軽自動車」ということばが初めて登場した1949年以来、「ガラパゴスだ、何だ」と言われながらも、無数の知見を営々と積み重ね、地道に進化を続けてきた軽自動車と言う「日本の誇り」が、3年にも満たない開発期間によって、いとも簡単に脅かされる訳がない、とも思っていました。ところが実際に見て触れた「ラッコ」は「一笑に付す」ような仕上がりではなかったのです。

BYDジャパン社長「やるからこそ儲かる可能性が広がる」

 その「ラッコ」ですが、BYDは日本市場への本格参入にあたり、2年半以上前から若い中国人エンジニアたちを中心に構成されたチームが開発に取り組んできました。日本の道路事情や地方都市の生活習慣を徹底的にリサーチし、その結果を反映して仕上げてきた軽BEVです。シャシ、ボディ、さらには駆動系や制御システムまで新設計したことで、海外メーカーとしては初めて日本の軽自動車の規格に合わせたうえで、日本市場でもっとも人気のあるスーパーハイトワゴン系の“乗用タイプの軽BEV”を仕上げてきました。確かにこれまでスーパーハイトワゴン系のBEVにはホンダの「N-VAN e:」やダイハツの「e-ハイゼットカーゴ」、スズキの「eエブリイ」などがありますが、どれもが商用バンであり、乗用車は空席でした。そこに日本を徹底調査して「ラッコ」を投入してきたのですから“脅威”と見られても当然かもしれません。

 さらにBYD副総裁にしてBYDジャパンの代表取締役社長、劉学亮氏(りゅう がくりょう)さんが次のような内容のコメントを残しています。

「利益確保を優先するなら、軽自動車への参入は、おそらくしなかった。だが、やらなかったら何も始まらない。儲かるからやるのではないが、やるからこそ儲かる可能性が広がる」

 さらにBYDの創業者である王伝福会長は、かつてから「トヨタは自動車製造における我々の師匠である」という趣旨の発言を何度も残しています。さらに「2030年までに世界トップを目指し、トヨタの座を奪う」と宣言しています。それを踏まえて今回のラッコを観れば「恐るべし、油断は禁物だ」となるわけです。

次のページ:バッテリーメーカーとしてのプライドが仕上げた軽BEVの専用設計
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