若い世代の一人暮らしと、シニア世代の一人暮らしは、感覚が大きく異なる(イメージ)
一人暮らしをする高齢者が増えている。厚生労働省『2025年 国民生活基礎調査の概況』(2026年7月公表)によると、2025年6月5日時点で65歳以上の人がいる高齢者世帯は2761万4000と世帯総数全体の過半数を占める。そのなかでも一人暮らしをしている「単独世帯」は933万1000で、65歳以上の者のいる世帯の33.8%に及ぶ。なお40年前の1986年は同13.1%だった。
なかには配偶者との死別などで、年を取ってから初めて一人暮らしをする人も少なくない。進学や就職など人生の階段を登ろうとする段階での一人暮らしスタートは明るいイメージもあるものだが、シニアになってからのそれは、いったいどういう心境なのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、最近一人暮らしを開始した72歳女性のリアルな生活を聞いた。
夫が急死し、突然「一人暮らし」となった72歳の“箱入り娘”
私が移住先の唐津で知り合った女性・Aさんは、今年72歳。夫と一緒に飲食店を経営していて、地元の居酒屋でも“顔”という存在でした。よく飲み、よく喋る人で、コミュニケーション能力も高く、飲食店で偶然隣り合った人と数時間お喋りをすることもありました。そんな彼女の生活に大きな変化が起こったのは、今年、夫が亡くなってからのことです。
名家出身のAさんは、そもそも大切に育てられた「箱入り娘」タイプ。結婚するまで自宅から出て生活したことはありませんでした。結婚後は実家を出て、いつも夫が側にいる暮らしを続けていました。
70歳を過ぎた頃、飲食店はもう知り合いからの予約のみ受け付けることにして、余生をのんびり過ごそうかな、と思っていました。そんな矢先に夫が亡くなったわけですから、とても「のんびり」どころではありません。何しろそれまで、電気・ガス・水道・スマホ・固定電話など、生活と飲食店経営に必要ないくつもの固定費に関する契約はすべて夫に任せっきりでした。慣れない役所関連の手続きも自らがしなくてはなりません。
さらに、一人暮らしになることで、それまで住んでいた4LDKのマンションは広すぎる。そこで、2DKのマンションに引っ越すことにしたのですが、何から何まで自力でやるほかありません。手続き面はほとんど夫任せにしていたAさんは、夫が先にいなくなるという発想もなかったようです。粗大ごみの出し方を学ぶだけでも往生していました。
若い頃に一人暮らしを始めた人間とは感覚が異なる
ある日、私は自分が住むマンションのエントランスでバッタリAさんに会いました。思わぬところでの姿に、私が驚いて、「えっ? ここに住んでいらっしゃったんですか?」と聞くと、Aさんはこう言います。
「2週間前、ここに引っ越してきたんです。あぁ~、お知り合いが身近にいてくれて本当に嬉しい! 心強いです。私は生まれて初めての一人暮らしだったので、心細くて仕方がなかったんです」
Aさんは私を見て明らかな安堵の表情を浮かべ、「片付いたら、ご夫婦(私と妻)を部屋にお招きするので、是非一緒に飲みましょう」と誘ってくれました。私といえば、「醤油やワサビなど、何か料理をするにあたって調味料が足りなかったらいつでも言ってくださいね」と、昭和のご近所さんのようなやり取りでその場を終えたのですが、Aさんはとにかく人恋しいようでした。
彼女の話を聞くと、一人暮らしの辛さというものは、各種手続きやゴミ出しを含めた家事を自分でしなくてはいけないことに加え、孤独であることも大きいと理解できました。これまでは常にだれかが身近にいる生活が当たり前だったのが、突然、一人になってしまった。そんな寂しさから、私のような飲み屋の知人ですら、「救いの神」のように扱ってくれるのです。
後日、Aさんの店に電気がついていたので入ってみたら、彼女は棚にあった食器を大量にカウンターに並べ、整理している真っ最中でした。瓶ビールをごちそうしてもらいながら彼女の話を聞いたのですが、やはり若い頃に一人暮らしを始めた人間とは、感覚が異なることが分かります。
私自身は社会人になって24歳から一人暮らしを開始しましたが、「これでオレは自由だ!」という喜びの方が大きかった覚えがあります。口うるさい家族はいないし、朝帰りをしても構わない。「独身貴族」という言葉もあるように、一人暮らし生活を満喫していたものです。
一方、高齢で配偶者を失い、初めて一人暮らしを開始する方は、まず寂しさが先に来るケースがあるのでしょう。その違いは大きい。そのうえで、これまで手が届かなかった部分もすべて一人でやらなければならないわけですから、不安も募るというものです。生活が軌道に乗るまでは、周りにいる人が気にかけて支えてあげる必要があるでしょう。
