中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

会話や議論を一言で終わらせる「人による」「ケースバイケース」話法への怒り

「これってケースバイケースだと思うんですよ」

 まぁ、飲み会やら雑談で「人による」「そういう人もいたというだけ」と言うのならまだしも、仕事でコレをやられたらたまったものではありません。マーケッターが顧客の属性を分析したとしても、この手の人は「それって人によるんじゃないの? 一括りにできないと思うけど」なんて言い、議論が先に進まない。マーケッターだって、数字を基に仮説を作って、それが正しいかどうかを議論したいのに、「絶対的なターゲット像なんてない。なぜなら人は人だから」と哲学者のようなことを言い始める。

 そして、もっとも厄介なのが「ケースバイケース」が口癖のビジネスパーソンです。実際にいたのですが、彼に意見を求めると、もうイライラして仕方がなかった。当時、私は広告会社で、とあるビールにまつわる人々の嗜好を調べていて、そのサッパリとしたビールの訴求ポイントをどこに絞るか、探っていました。

 私なりの提言としては【1】喉が渇いた時、スポーツやサウナや風呂の後、【2】ファストフードやエスニックフードなど、味の濃いものを食べる時、【3】とにかくサッパリとしているため勢いよく飲みたい時、となりました。こうした訴求ポイントを絞ることで、広告の表現やら商品説明文を書く際に指標ができますからね。そこで、メンバーのA氏に意見を求めるとこう来るんです。

「今、3つのポイントが出ましたが、これってケースバイケースだと思うんですよ。だって和食とビールの組み合わせが好きな人もいるし、ビールをじっくりと飲みたい人もいる。人によるんじゃないですか?」

 彼は某役所から出向してきた人物だったため、こちらも強くは言えません。外の人ですから。もしも年下の後輩だったら「アホ! お前の意見はないのか!」と言うところですが、彼は毎度この「ケースバイケース話法」「人による話法」を続けました。

 結局、この話法をする人々は、決まりきった書類の処理業務は得意なのかもしれませんが、アイディアを作り、何らかの判断をし、それを実行するのはとんと苦手。結論を言わないでのらりくらりとかわすことで、責任追及から逃れようとしているのでは。というわけで「人による」「ケースバイケース」と言う人には意見を求める必要はありません。その方がその人物も責任を負わされないで助かることでしょう。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。

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