大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「人事・配属ガチャ」は人生を切り拓く好機になる 大前研一氏が就活生・新入社員に向けアドバイス

 そもそも今の若者たちは、文部科学省の学習指導要領に沿った教育で素直に育っているので、親や先生が敷いたレールに乗りたがる。だから、そのレール上で「人事ガチャ」や「上司ガチャ」に遭遇すると、ネガティブな心理になるのだろう。

 しかし、世の中にはその会社以外にも会社は山ほどある。レールから外れても、どうってことはない。むしろレールから外れることを楽しむくらいの図太い神経を持ってほしいと思う。

 ところが、小学生・中学生・高校生を対象にした第一生命保険の「大人になったらなりたいもの」調査(2022年12月)の結果を見ると、それはなかなか難しそうだ。なんと小中高生男子・中高生女子のランキング1位が3年連続で「会社員」なのである。

 しかも「憧れの人」は小中高生の男女すべてで「お父さん・お母さん」がトップだった。アンビション(大志)も冒険心もなく、実にパッシブ(受動的)でディフェンシブ(防御的)だ。

 子が親を超えてこそ、未来に期待ができる。だが、親の言うことを聞いたら親みたいにしかなれないし、先生の言うことを聞いたら先生みたいにしかなれない。そして彼らが子供や生徒に勧める職業・仕事の大半は、シンギュラリティ後は意味がなくなる。自分の人生は自分で切り拓くものであり、親や先生の言うことに従ってはいけないのだ。

 人生はガチャの連続である。「人事ガチャ」や「上司ガチャ」だけでなく、子供は親を選べない「親ガチャ」もあるが、それらは乗り越えるべき壁であり、そんなことでくじけたら、人生をギブアップしたも同然だ。若いうちはできるだけ失敗し、それをバネにして前に進んでいくべきである。

 というわけで、私から就活生・新入社員に贈る言葉は「まず旅に出よ」だ。休みが取れたら、自分で目的地や旅程を決めて世界を見てほしい。日本国内の行ったことがない所でもかまわない。そこでいろいろな人々と交わり、異質な文化を体感することで、人生の幅は大きく広がるのだ。

 近年は「イオニスト」「ららぽーたー」など、地元のショッピングモールを中心とした半径5kmの生活圏から出ない若者が多いが、そういう狭い世間で縮こまっていたら、人生は謳歌できないと思うのである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『第4の波』(小学館)など著書多数。

※週刊ポスト2023年5月19日号

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