大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「人事・配属ガチャ」は人生を切り拓く好機になる 大前研一氏が就活生・新入社員に向けアドバイス

会社だけでなく人生はガチャの連続(イラスト/井川泰年)

会社だけでなく人生はガチャの連続(イラスト/井川泰年)

 文部科学省によると、今年3月に卒業した大学生の就職内定率は90%を突破。そうした売り手市場の中で、「人事ガチャ」「配属ガチャ」「上司ガチャ」という言葉が流行語にもなっている。しかし、経営コンサルタントの大前研一氏は、「人事・配属ガチャ」などは人生を切り拓く好機であり、「『○○ガチャ』は構想力を鍛えるという意味では決してマイナスではない」と考えている。就活生や新入社員はこれからどんなことに目を向ければよいか、大前氏がアドバイスする。

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 1つは「グローバル性(=世界のどこでも通用する能力)」を身につけること、もう1つは「構想力(=新しい事業をつくるアイデア)」を磨くことである。

 グローバル性を身につけるためには、世界を旅しなければならない。ヨーロッパ諸国では長期間にわたって海外を巡る若者が多く、とくにワンダーフォーゲル(原義は「渡り鳥」)の伝統があるドイツの場合は、大学を出ても2~3年は就職せず、世界をぶらぶらするケースが少なくない。

 かつては日本もそうだった。小澤征爾氏の『ボクの音楽武者修行』や小田実氏の『何でも見てやろう』、沢木耕太郎氏の『深夜特急』などの世界紀行を読んで刺激された多くの若者が、今よりはるかに費用も時間もかかる海外に出かけていた。私自身も大学入学前に日本中を旅していたし、大学院時代にはアメリカとヨーロッパを1か月以上、アーサー・フロマーの案内本を片手に1日5ドルの貧乏旅行をした。その経験から「世界のどこでも生き残っていける」という自信がつき、それは以後の人生において何物にも代え難い貴重な財産となった。

 そして、グローバル性は2つ目の構想力につながる。海外に行ったら、隣にいるあらゆる国の人に話しかけて知り合うことが極めて重要だ。未知の人たちの思考や価値観などを知れば、新たな学びがあって発想が広がるからである。

 そのためには英語などの外国語ができないといけないが、どこの国のどんな人と出会えるかわからないという、いわば「海外旅行ガチャ」は、構想力を鍛える大きなチャンスなのである。だから、大学卒業後すぐに就職するのはもったいないと思う。若者は、とにかく世界を見て回るべきなのだ。

レールから外れることを楽しむ

 実は「○○ガチャ」は構想力を鍛えるという意味では決してマイナスではない。

 たとえば、配属先の上司が無能だったとしても、それは人間研究のまたとないチャンスと考えるべきである。そのバカ上司をつぶさに観察し、「他山の石」にすればよいのである。

 厚生労働省の調査によると、新入社員の3割は3年以内に離職するそうだが、私なら自分の意に沿わない部署に配属されたとしても、それは将来の糧になるとポジティブに考え、そこで頭角を現わすことを目指して懸命に努力する。それが実を結ばなかったとしても、その会社で異なる部署をいくつか経験してから辞める。そうすれば、どんな会社でも通用するスキルを身につけることができるからだ。

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