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学生レポートはAIに丸投げで大丈夫か? AI時代に求められる“答える力”より大切なスキル

AI時代を生きる子供にはどんな教育が必要なのか(イメージ)

AI時代を生きる子供にはどんな教育が必要なのか(イメージ)

デジタル・ネイティブ世代の学びとは

──私には小学生の子供がいますが、AIが社会を変えていくなかで、子供にどういう教育をすればいいか迷うことがあります。同様の思いの親は多いのではないか、と推測します。

鈴木氏:子供の場合は、デジタル・ネイティブなので、放っておいても、AIでも何でも自然に使いこなすようになるでしょう。AIとか、メタバースとか、デジタルが溢れた世界で重要になるのは、リアルな自然体験とか、人と人とのコミュニケーション体験とか、哲学用語で言うところの“純粋経験(*)”を積み、直観を磨くチャンスを与えてあげることです。

【*注/純粋経験:「後付けされた概念や解釈などをできる限り排除して得られる原初的な経験」を指す哲学用語】

 水平線に沈む夕日を見て涙が流れたとか、他の子と友達になって喧嘩して仲直りしたとか、リアルな体験を重ねることがとても大事です。

 塾や受験のシステムに子供を委ねるのは楽なのですが、今後、それは人間をロボット化することになりかねない。AI時代にはロボット化された人間は本物のロボットにかなわなくなります。

 これからの時代を生きていく子供たちは、今はまだ存在しない仕事に就いたり、想像もしなかった社会問題に直面したり、現時点では予想できなかったことが起きるでしょう。

 私はOECD(経済協力開発機構)の「教育2030プロジェクト」の理事を務めていますが、その中心的な概念とは、予測できない不確実な未来を生きていく子供たちには、「自ら目標を設定し、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく姿勢・意欲」を身につけさせることが大事だとしています。

 課題を見通し(Anticipation)、行動し(Action)、振り返る(Reflection)という「AARサイクル」を繰り返して、問題を解決できる人を育てるということです。

 それには自主性や自発性を伸ばすことが何より大事で、子供たちには時間と空間の自由を意図的に確保してあげることです。単に放置するのではなく、子供の自主的、自発的な行動を大人がうまく支援してあげることが大事です。

東大公共政策大学院教授の鈴木寛氏

東大公共政策大学院教授の鈴木寛氏

 * * *
 電卓が登場したとき、そろばんの技能の価値は著しく下がり、コンピュータが登場したら、そろばんの役割はほぼ終わった。脳トレ的な活用のされ方は残ったが、もし今、学校で計算の技術を学ぶことを目的に必死にそろばんの技能を習得させようとしていたら、「もっと他のやり方がある」と考える人は多いだろう。

 時代の要請で教育は変わる。AIの加速度的な進化が始まった今、従来の教育を相変わらず続けているのは、惰性でしかないだろう。教育の現場における大人の役割にも変化が求められているのは間違いない。

(了。前編から読む

【プロフィール】
鈴木寛(すずき・かん)/1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。1995年夏から、通産省勤務の傍ら、大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰。大学教員に転身し、2014年より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授(2023年から特任教授)に就任。2015年2月より2018年10月まで、文部科学大臣補佐官を4期務め、アクティブ・ラーニングの導入や学習指導要領の改訂、大学入学制度改革に尽力した。

取材・文/清水典之(フリーライター)

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