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【退職金増税】岸田政権の退職金課税見直しが「氷河期世代」を狙い撃ち 「長く勤めても増税、5年未満でも増税」の支離滅裂

退職所得控除額が見直されると、税金の額はどう変わる?

退職所得控除額が見直されると、税金の額はどう変わる?

70万円以上の増税になるケースも

 具体的にどのような見直しになるかは今後、議論が進められるが、北村氏は「さすがに退職所得控除を0にするということはないが、勤続20年以降も1年勤めるごとの控除の増額が70万円に増えず、40万円のままに据え置かれる案が有力ではないか」とみる。

「そのかたちの見直しがある前提で試算してみると、勤続35年で退職金が1500万円の人は約7万5000円、2000万円の人は約45万円、3000万円の人は約72万円の増税となります。長く勤めて退職金が多い人ほど負担が増すわけです。これまで会社のために一生懸命尽くしてリタイア間近の人はたまったものではない。

 中堅クラス以上の企業の退職金は2200万円前後が相場です。40年間働くと控除額は2200万円(40万円×20年+70万円×20年)となり、ちょうど全額そのまま受け取れるような退職金相場になっているわけですが、そのバランスが崩れてしまいます。長い期間勤めてきて、退職金を受け取る段になって控除額がいきなり減らされて税金を払ってくださいというのはかなりの不利益変更で、当然、十分な猶予期間を設ける必要があるという話になるでしょう」(北村氏)

 仮に猶予期間が設けられてから、控除額の縮小が進められるとなると、「標的にされるのはいわゆる『氷河期世代』という話になってくる」と北村氏は続ける。

「今回の見直しのメインのターゲットは、ようやく勤続20年を迎えた40代ではないかと考えられます。1980年前後に生まれた人たちで、2000年前後に大学を卒業したいわゆる就職氷河期と呼ばれる時代を経て社会に出た人たちです。バブル崩壊による大不況と就職難の中を生き抜いてきた人たち。彼ら彼女らが、ようやく就職できた会社で20年勤め、これから老後資金の準備をしようというタイミングでの退職金増税というのは、当事者からすれば納得しがたいものでしょう。

 しかも、2022年には勤続年数が5年以下で退職所得控除差引後の金額(収入金額-退職所得控除額)が300万円を超える部分に関しては、2分の1課税適用がされなくなるという改正が行なわれています。在職期間が短い外資系企業などをターゲットにした改正とされますが、長く勤めても増税が待っているし、5年未満でも負担が重くなる。政府のやっていることは支離滅裂で、やはり取れるところから取るという姿勢にしか見えません。

 少子化対策も児童手当を増やす一方で扶養控除を削ろうとするなど誤魔化しばかりですが、退職金課税の見直しも、これで雇用の流動化が進むかは甚だ疑問です。退職金課税の見直しは以前から囁かれていた話ではありますが、ここにきて急に話が具体化してきた。岸田政権になって、霞が関官僚がやりたい放題で何でもかんでもねじ込んでいる印象です。岸田首相なら負担増の話を何でも通せると思っているように見えてしまいます」

 そんなことでは、支持率はますます下がるばかりだろう。

【プロフィール】
北村庄吾(きたむら・しょうご)/1961年生まれ、熊本県出身。中央大学卒業。社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー。ブレイン社会保険労務士法人代表社員。YouTube「年金博士・北村庄吾の年金チャンネル」で〈退職金改正案を切る!〉https://youtu.be/hyJW7NU6AaYを公開中。

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