田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国で不動産バブルが拡大する構造的問題 土地公有制でありながら市場経済を導入した矛盾

より社会主義的な国家の建設を目指す習近平政権

 前述のように、不動産の経済波及効果は大きく、かつてはGDPの3割を占めると言われていた。不動産市場の拡大は財源の拡大に直結、経済発展は地方の指導者たちの人事評価を高めることにも繋がった。

 つまり、中国の不動産市場を歪めている根本的な要因は、特異な国家財政構造によるといった見方ができる。

 習近平政権下においても、地方と中央の関係を調整すべく、財政体制改革を進めてはいるが、問題解決につながる決定的な改革はできていない。

 一部の地方政府(傘下の金融プラットフォーム)では、現在、放漫経営、開発遅延などが原因で多額の不良債権が発生しているが、一方で、土地使用権といった巨額な資産もある。また、中国の金融システムは、表向きは市場経済の下で動いてはいるが、有事には容易に国家管理に移行できるシステムだ。貸し渋りも、貸しはがしも防ぐことができるだろう。不動産会社の破綻を防ぎ、不良債権を金融システム全体で吸収することも可能だろう。

 しかし、不動産市場の低迷が続き、資産価値の下落が長期間続いた場合でも大丈夫だといえるだろうか。

 とりあえずは需要サイドへの刺激策の強化が急務だろうが、しかし、それがうまくいけば、またすぐにバブルが発生するだろう。それこそ不動産価格への介入、供給の管理といった、より社会主義的な制度変更まで必要になるかもしれない。

 悪質な投機の発生は、市場経済、自由経済に内包される弊害ととらえることもできるが、それ以前の問題として、社会主義下での市場経済、自由経済の導入そのものに本来、無視できない矛盾があったのかもしれない。

 習近平政権はこれまで導入してきた資本主義、市場経済の一部を修正し、より社会主義的な国家の建設を目指しているが、そうした理想国家を建設するには不動産不況をはじめ、大きな試練を乗り越える必要がありそうだ。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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