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【マイノリティに配慮する研修が“金脈”に】アメリカで拡大する「キャンセルカルチャー産業」 炎上する人が増えるほど儲かる仕組み

 同様に、#MeToo運動から生まれ、女優のリース・ウィザースプーンなど著名人が役員を務める慈善団体「タイムズアップ」は、初年度に360万ドルを調達し、そのうちCEOに34万2000ドル、最高マーケティング責任者に29万5000ドル、会計担当に25万5000ドルなど、給与に140万ドルを費やしたものの、性的虐待の被害者を支援するために設立された基金への寄与はわずか31万2000ドルにとどまったと報じられた。

 ウィル・ストーは『ステータス・ゲームの心理学 なぜ人は他者より優位に立ちたいのか』(風早さとみ訳、原書房)でこう書いている。

〈キリスト教徒は地獄をつくりだすことによって救済への不安を生み、それから逃れ
られる唯一の方法として自分たちのゲームを提示した。同じように、新左翼の活動家たちは、偏見だと非難してもよい条件を根本的に書き直し、単に白人や男性であることが罪の兆候になるようにハードルを下げることで地獄をちらつかせる。こうして救済への不安を生みだしたうえで、自分たちの運動を唯一の救済策として提示するのだ。地獄の脅威から逃れるためには、これみよがしに熱心に、非常に正しくプレーをするしかないのだと。〉

 資本主義社会では、ひとびとの活動すべてが市場で売買されるようになる。もちろん、「社会正義」も例外ではない。

 キャンセルカルチャー産業にとっては、アクティビストが正義の拳を振り上げ、地雷に触れて「爆死(炎上)」する者が増えれば増えるほど、サービスへの需要が殺到し富が増えていく。アクティビストのなかにも、DEIのトレーナーやコンサルタントになって成功する者が出てくるだろう。

 この世界が地獄になるのは、得体の知れない「陰謀」のせいではなく、その方が都合がいい者がいるからなのだ。

【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。リベラル化する社会をテーマとした評論に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』がある。最新刊は『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)。

※橘玲・著『世界はなぜ地獄になるのか』より一部抜粋して再構成

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