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キャリア

60才で医師免許取得の東大卒元キャリア官僚 生活を切り詰めて応援した妻は「世界一の医者になって」と激励

先が見えない受験中の5年間、「もうダメかもしれない」と思ったこともあるという(水野隆史さん)

先が見えない受験中の5年間、「もうダメかもしれない」と思ったこともあるという(水野隆史さん)

 定年後のセカンドキャリアのために資格を取ろうと考える人は少なくない。しかし、60才で医師免許を取得するというのは、かなりのレアケースだろう。

「患者さんが無事に笑顔で退院するとき、外来の患者さんの治療が終わったとき、訪問診療で患者さんやご家族に笑顔で迎えられたときに、“医師になってよかった”と実感します」

 そう話すのは青森県の十和田市立中央病院の総合診療科に勤務し、訪問診療を専門とする、とわだ診療所所長も兼務する水野隆史さん(68才)。東京大学から農林水産省に入省したキャリア官僚だったが、50才を目前にして一念発起して医師を志し、60才で医師免許を取得した。

「父は私が19才のときに早逝していたので、自分が50才を超えられたら父の分までもうひとつ別の人生を歩んでみたいと漠然と考えていました。小学生のときに伊能忠敬の伝記を読み、感銘を受けた影響もあると思います」(水野さん・以下同)

 伊能忠敬は江戸時代の商人で、50才で家督を長男に譲り江戸に出て天文を学び、55才にして全国の測量を始め、艱難の末に精度の高い日本地図を完成させた“遅咲きの星”。

 水野さんが目指した医学部への道もまた、長く険しいものだった。

「2種類あった試験科目のうち、特に苦労したのは生命科学。その範囲は生化学、生理学、細胞生物学、分子生物学、遺伝学など多岐にわたり、ほとんどゼロから始める状態でした。20冊以上の参考書を買ってマーカーを引き、単語帳を作り、ボイスレコーダーに参考書のポイントを録音して繰り返し聴きました。

 平日は夜11時に寝て朝3時から7時まで勉強し、仕事に行って休日は朝から晩まで机に向かう日々でした」

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