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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

日本経済を上向かせるには「賃上げ」より「利上げ」 「サウジの原油より豊かな“鉱脈”」となる高齢層の個人金融資産を掘り出せる

「利上げ」が日本経済活性化のきっかけになる理由とは(イラスト/井川泰年)

「利上げ」が日本経済活性化のきっかけになる理由とは(イラスト/井川泰年)

 日本はいま「低欲望社会」に陥っている。超高齢化と人口減少が加速する中で、“欲なき若者”が増加し、潤沢な個人金融資産を持っている高齢者も将来不安によってお金を使わなくなっている。日本経済を復活させる方法はないのか。経営コンサルタントの大前研一氏が「いま日本がとるべき経済政策」を提言する。

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 日銀の資金循環統計によると、2023年6月末時点の個人金融資産は過去最高を大幅に更新する2115兆円に達し、初めて2100兆円を超えた。そのうち現預金が52.8%の1117兆円を占めているが、それをメガバンク3行の10年定期に預けていても年0.2%の金利しかつかない。1117兆円だと年2兆2340億円だ。

 しかし、もし年5%の金利がつけば、1117兆円に対する金利は年約56兆円となる。これはサウジアラビアの原油収入の2倍以上であり、日本は世界でも稀に見るキャッシュの“埋蔵量”が豊富な国なのだ。

 ところが、そのキャッシュは雀の涙ほどしか金利がつかない銀行などの預貯金に塩漬け状態になり、メガバンクばかりが儲かる歪なかたちになっている。

 世界では、カネ余りになったら、ふつうはそれを使う。たとえばアメリカ人は、本連載で何度も書いてきたように、若いうちからフロリダやサンベルトなどの暖かい地域にセカンドハウスを買って貸し出し、リタイア後はそちらに移住するというライフスタイルが定着している。1人が2軒の家を所有するから、GDPが拡大するのだ。

 日本人と同じように勤勉で質素倹約のメンタリティだったドイツ人も、近年は住宅が贅沢になり、夏休みを1か月ぐらい取って海外で長いバケーションを楽しむようになっている。

 一方、日本人のライフスタイルは、30年以上も給料が上がっていないこともあって、慎ましいままだ。日本は2023年の名目GDP(国内総生産)でドイツに抜かれて4位に転落する見通しだが、すでにライフスタイルの豊かさではドイツに抜かれているのだ。

 日本は、個人金融資産の3割以上=約650兆円を65歳以上の高齢者世帯が現預金で保有している。それが銀行預金などの“眠れる資産”になっているから、景気が上向かないのである。

 結局、日本は金融庁が「老後30年間で約2000万円不足する」と試算した「老後2000万円問題」(その後削除)などが国民の漠たる将来不安をいっそう募らせてしまい、実際は必要十分な個人金融資産を持っている高齢者も萎縮してカネを使おうとしないのだ。

 しかし、政府が「生活に困ったら国がすべて面倒を見る」と約束すれば(そのための方策については拙著『第4の波』などで詳述)、日本人は将来不安から解放され、個人金融資産が市場に出てきて景気が一気に良くなるはずであり、そうすることこそが政治の役割ではないだろうか。

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