大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

憲法改正の争点は「9条」でも「緊急事態条項」でもない、喫緊の課題は「国の統治機構の刷新」 大前研一氏が指摘

憲法は国家の「組織運営体系」

 一方、立憲民主党は現行憲法の基本理念と立憲主義に基づく「論憲」、公明党は制定時に想定されなかった新しい理念や改正でしか解決できない課題が明らかになったら必要な規定を憲法に付け加える「加憲」を提唱しているが、具体的な条文案は提示していない。

 日本維新の会は「教育の無償化」と道州制を導入して国が持つ権限の多くを地方に移譲する「統治機構改革」および「憲法裁判所の設置」のほかは自民党の条文イメージと大差なく、国民民主党の主張も自民党と似たり寄ったりだ。日本共産党、れいわ新選組、社会民主党は改憲に反対している。おのおの同じ土俵に立つ気がないのだから、改憲機運が高まるわけがない。

 憲法は国家の根幹である統治機構を規定する。企業で言えば、経営にとって最も重要な「組織運営体系」だ。組織運営体系がしっかりしていれば危機に直面しても生き残ることができるが、脆弱だったら倒産する。すなわち、今の日本が衰退しているのは組織運営体系=憲法に問題があるからだ。

 これはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が原案を書いたので、当時としては致し方ない面はあるが、真に独立した国家なら、第8章を中心に書き換えなければならない。

 国家の場合、組織運営体系は地理と密接につながる。日本は東西南北に約3000kmの長さがある弓なりの国土だから、北海道と九州・沖縄は気候も生態系も日の出・日の入りの時間も大きく異なり、その運命が同一ではあり得ない。したがって、各地域は「地政学」「地経学」の視点から、それぞれの地域にふさわしい展望、戦略、実行計画を組み立て、そのための予算を自由かつ独自に確保すべきである。

 ところが、それは今の日本国憲法ではできない。第8章で「地方自治」を規定しているが、拙著『君は憲法第8章を読んだか』(小学館)で指摘したように、地方自治とは名ばかりで、我々が日ごろ「地方自治体」と呼んでいるものは、第8章では「地方公共団体」としか呼ばれていない。つまり、都道府県や市町村は自治の権能を持たず単に行政サービスを行なうことを認められた「国の出先機関」にすぎない。未だにこの統治機構を固持しているところに、中央が無策だと国全体が衰退する日本の本質的な原因がある。その変革こそが改憲の喫緊の課題なのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2024年4月5日号

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