3月には新たな券面デザインが発表されるなど、その普及に向けて様々な施策が打ち出されているマイナンバーカード。だが、経営コンサルタントの大前研一氏は「今のデジタル庁に任せていたら、この国は永遠にデジタル化できず、世界から取り残されていくだけ」と断じる。どういった問題があるのか、大前氏が解説する。
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2026年から使われるマイナンバーカードの新たな券面デザイン案が3月、デジタル庁から発表された。しかし、この「新デザイン」を見ただけでも、政府がいかに国民データベース(DB)の本質について理解していないかがよくわかる。
主な変更点は「性別表記の削除」や「生年月日の元号から西暦表記への変更」、「氏名に振り仮名・ローマ字を併記」など、いずれも当たり前すぎる内容だ。
世界に目を転じれば、エストニアやインドをはじめとする多くの国が、国民とデジタル的につながる国民DBを構築して行政サービスに活用している。それらは個人のスマートフォンやPCでの使用を基本に据え、顔や指紋、虹彩などの生体認証が付いている。
国民DBによる効率的な行政運営を目指すなら、どのサーバーをベースにシステムを構築し、どんな役割を持たせるのかをまず決めなければならない。それによって初めて全体のデジタルデザインができ、膨大な個人情報のうち、どこまでを基本データとして収録するかが決まる。ところが、今のマイナンバーは20年以上前に作られ、自治体ごとにバラバラな住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)のシステムを援用したもので、生体認証が付いていない。最初から国民DBの体をなしていないのだ。
国家公務員でも利用率4%台の「マイナ保険証」
国民にとっての大問題は、政府が今年12月から紙の健康保険証を廃止し、このマイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」への一本化を強行しようとしていることだ。
IDカードを保険証としても活用しようというなら、病歴・投薬歴などは厳重なセキュリティを施したサーバーで管理し、必要に応じて医療機関がいつでもアクセスできるようにすべきである。私自身、アレルギーがあって緊急搬送時の処置に注意が必要なのだが、そうした命に関わる情報を保険証を介して医師に伝えなければならない。海外滞在中にも起こり得ることを考えると、重要な部分は英語で表記する必要もあるだろう。だが、生体認証がなく、本人確認すら覚束ないマイナ保険証では実に心許ない。緊急時に本人が暗証番号を打ち込めるわけもない。