広い店内には珍しい酒もたくさんある
お酒はいつ飲んでもいいものだが、昼から飲むお酒にはまた格別の味わいがある――。ライター・作家の大竹聡氏が、昼飲みの魅力と醍醐味を綴る連載コラム「昼酒御免!」。記念すべき連載第10回は東京の下町にあるお洒落な「角打ち」を訪ねた。【連載第10回】
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昼から酒を飲みたい諸兄姉に好評をもって迎えられている(と筆者が勝手に信じている)連載「昼酒御免!」も第10回目。朝酒、昼酒の原点と呼ぶべき「角打ち」に出かけてみることにした。
場所は蔵前。鳥越と浅草の間である。
私はフリーになってから20年ほど、中央区日本橋馬喰町に仕事場を持っていた。住所は日本橋なのだけれど、最寄駅は馬喰町と浅草橋。浅草橋から北へぶらりぶらりと歩いていくと、鳥越を抜け蔵前に着き、おお、この地へ来たならば「駒形どぜう」のどじょう鍋で日本酒という絶妙の昼酒プランが頭をよぎるところだが、さらに北へ向かうと、しばらく歩けばそこはもう浅草。並木の「藪」で蕎麦前を楽しみつつ熱燗を飲むというこれまた絶妙の昼酒プランが思い浮かんでしまう。
けれど、このたびの目的は角打ちだ。角打ちというのは、酒屋の店頭で飲むこと、あるいはそれができる店、くらいの意味ですが、何がすばらしいって、酒屋さんの店先(あるいは店内)で飲むわけだから、そこには売るほど酒があり、酒屋さんの店頭価格であるからして、飲み屋より安い。しかも、酒屋さんは、ちょっとしたつまみ、スナック類、缶詰類など、飲兵衛が軽く口に入れたいあれこれを、ずらりと並べて待っていてくれる。そう、行かない手はないのである。
場所は蔵前4丁目。店の名は「カクウチカフェ フタバ」。大江戸線の蔵前駅からふらりと歩いて訪ねた。
この店には昨年、一度来たことがある。昨年11月に上野公園で「酒屋角打ちフェス」という大イベントが開催されたのだが、この主催者のひとりが、この店の店主の関明泰さんなのだ。私はイベントの一部でステージに立って出店した酒蔵の酒を試飲してコメントするというお役目を仰せつかったのだが、酒は好きだがテイスティングとなるとまるで自信がない。実際、イベント当日もなんの役にも立たず、ご迷惑をかけるばかりだったが、イベントに先立っての打ち合わせの日に、この店を訪ねたのである。しかし、そのときは、店の定休日であったから、ここで飲むのは、今回が初めてなのである。