そうした国会を企業経営者の視点で見たらどうか?
たとえば、上場企業にとって株主総会は最も重要な会議であり、経営者は「生きるか死ぬか」の緊張感を持って臨んでいる。もちろん株主から質問内容の事前通告などはなく、議長はその場で出された質問に対して、臨機応変かつ的確に答えなければならない。国会審議の閣僚のようにアバウトな答弁をしていたら、質問が終わらないだろう。
だから議長は会社のことを熟知していないと仕切れないし、現場感がなければ手も足も出ない。このため、企業によっては取締役会の議長とは別に株主総会の議長を置くケースもある。
とにかく、企業経営者に比べると、閣僚の能力不足と緊張感のなさは目に余る。
たとえば、武藤容治経済産業相は3月上旬に訪米してラトニック商務長官やグリア通商代表らと会談し、日本を“トランプ関税”の対象から外すように申し入れたが、その効果は全くなかった。いわば「当たって砕けろ」で砕け散ったわけで、企業なら武藤経産相のように勝算も交渉力もなくアメリカ出張した幹部は即刻、解任されるだろう。
今国会で石破政権は予算成立のために、どの党と妥協するかで右往左往した。理念や主義主張は関係なく、予算さえ成立できればよいという実にふしだらで不埒な国会運営である。
こうしたお粗末な国会の現状を改革するためには、イギリス議会のように質問内容の事前通告という慣例を廃止すべきだと思う。
そうすれば、官僚は答弁案を作りようがないから、閣僚は自分の省庁の政策や施策を懸命に勉強しなければならないし、国会は丁々発止、侃々諤々の緊迫した論戦になるのではないか。
それまではNHKも、つまらない国会中継の垂れ流しをやめてもらいたい。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2025-26』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年5月2日号
『新版 第4の波』(小学館親書)