構造的な障壁を打破しての国策推進というアベノミクスとの類似点
先に記述した通り、この決定は日本で行われたアベノミクスをイメージするとそのインパクトが想像しやすい。このドイツ版「財政バズーカ」がアベノミクスと類似している点としては、「財政制約の解禁」「国力再生を目的とした国家戦略」「財政出動による民間支援」「批判覚悟の決断」といった点が挙げられるだろう。
まず「財政制約の解禁」という点を見てみよう。アベノミクスではプライマリーバランスの黒字化目標を後回しにして機動的な財政出動に踏み切る、という当時タブーと思われたことを断行した。ドイツでも、憲法の「債務ブレーキ」を撤廃して財政出動を解禁したとあって、その覚悟や、転換点としての意義の大きさがわかるだろう。
「国力再生を目的とした国家戦略」においては、両国とも、国力再生における構造的な障壁を打破しての国策推進という共通点が挙げられる。
「財政出動による民間支援」においては、日本でもそうであったように、公共支出により民間の設備投資や雇用促進に資する波及を狙う共通点が見て取れる。
「批判覚悟の決断」においては、日本はいまだにアベノミクスに対する根強い批判があるように、ドイツも今後、長く一定数の批判が生じることと考えられる。
恒久的な制度転換がもたらすインパクト
アベノミクスは雇用や経済、株価に大きな影響を及ぼした。名目GDPはアベノミクス前の2012年においては約475兆円だったのに対し、2019年には約560兆円と18%の増加、長期デフレの脱却を実現、2012年当初4.3%だった完全失業率は2019年には2.2%、有効求人倍率は0.8倍が1.6倍超に上昇し、バブル期以来の高水準まで成長した。
約6300万人だった就業者数も女性や高齢者の就業が増加し、約6700万人まで上昇した。2012年末、約9000円だった日経平均株価は2019年には2万円を突破し、円安と低金利で外需企業が大幅増益を実現した。その後の岸田文雄政権において、1989年12月に付けた日経平均最高値3万8915円を更新し、最高値で4万2000円を突破する大飛躍を遂げたのも、アベノミクスが大きな礎となったといえるだろう。
この経験を踏まえると、ドイツ版「財政バズーカ」はアベノミクス以上に大きな飛躍の可能性が期待できる。特徴としては財政出動の対象分野が、国防、脱炭素、インフラ、産業再編ということで、アベノミクスが雇用促進や景気刺激だったのに対し、産業にターゲットが絞られていることが挙げられる。これは該当企業の株価にとっては強烈な追い風となることが期待され、例えば、軍需・防衛および自動車部品の2つの事業を柱とするエンジニアリング企業であるラインメタルは年初来142%超の株価上昇となっている。
また、制度の恒常性もアベノミクス以上に期待が持てる点だ。アベノミクスが政府方針による時限的な政策だったのに対し、ドイツは憲法改正により実現を遂げており、恒久的な制度転換ということになる。
ここからのドイツの動向は、投資家にとって注目に値するだろう。