テンポよく相手の詳細情報を引き出すテクニック
ここで詐欺グループが使っているのが「クローズドクエスチョン」「オープンクエスチョン」のテクニックです。クローズドクエスチョンは「はい」か「いいえ」で答えてもらう質問のことをいいます。この質問の仕方は、会話の糸口になりやすく、相手側は思考する必要が少ないので、信頼関係がまだ構築されていないときなどに有効な質問方法です。
反対にオープンクエスチョンは、自由に答えられる質問のことです。相手側にたくさん話をしてもらえる質問形式なので、潜在的な会話を引き出すのに有効だといわれています。
今回の事例だと、カードが悪用されたという事態のなかで「カードを変える」という選択肢しかないわけですが、あえて「カードの再発行をしますか?」と、「はい」か「いいえ」で答えるクローズドな質問の後に、「どちらのクレジットのカードをお持ちですか?」とオープンな質問を展開しています。
このようにクローズドとオープンな質問を交互に使い分けることで、質問ばかりの尋問口調になることを避け、テンポよく相手の詳細情報を引き出しているのです。
この質問の仕方は、ビジネスでも使われるものです。
テナントを誘致する営業のケースであれば、相手から必要な情報を聞き出したい思いが強くなると、「どの辺りの物件をお探しですか?」と自由に答えられるオープンな質問を繰り返してしまいがちです。しかし、それでは尋問口調となり、充分な答えを引き出せないことも多くなってしまうことでしょう。
大事なことは、その前に「新しいテナント先をお探しですか?」と尋ねて、「はい」か「いいえ」で答えを引き出して話の流れをつくり、テンポよく話を進ませることです。このクローズな質問をすることで、自分が目的とするところに誘導しながらの話も可能となります。
まさにそうした手法を使って、詐欺グループはターゲットにした高齢者の情報を収集しようとするので、始末に負えません。くれぐれも「はい」か「いいえ」で聞いてきた上でのオープン質問に人は誘導されやすいことを知り、初見の相手からの最初の質問には不用意に答えず、電話などがかかってきても早めに切ることが、詐欺の話の流れに乗らないためには大事なことになります。
【プロフィール】
多田文明(ただ・ふみあき)/詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。『ついていったらこうなった』(彩図社)はテレビ番組化。また、旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)。