米中追加関税の応酬は一段落か(Getty Images)
世界経済を巻き込んだ大騒動も一段落したのだろうか──。一方的なトランプ相互関税政策の発表に中国が反発、34%の追加関税を課すと発表した4月4日以来、米中追加関税の応酬が展開されたが、5月10、11日、スイス・ジュネーブで行われた米中経済貿易ハイレベル会談を経て、一旦巻き戻されることになった。
米国側は他国と同様のベースライン関税10%に合成麻薬「フェンタニル」を含む違法薬物の流入が続いていることなどを理由とする追加関税20%を加えた30%、中国側はベースライン関税相当の10%を課すことになった。ただし、米国側が課す国・地域別関税34%の内、24%相当は90日間停止されるだけで、中国側も同じ措置を採る。この24%を巡り、今後も協議が行われることになるだろう。
米国が中国に対して仕掛けたチキンレースだが結局、トランプ大統領が協議を要請したことで引き分けに持ち込んだ格好だが、今回の騒動を通じて両国は改めて米中デカップリングが極めて難しいことを再認識したのではなかろうか。
米中が互いに依存し合う製品・産業
米中には強く依存しあう製品、切り離されては困る産業が存在する。
米国最大の弱点はレアアース・レアメタルだ。中国が多くのレアアース・レアメタルの供給において支配的な地位を占めている。戦闘機のレーダーは長い探知距離、高い精度が求められ、窒化ガリウム半導体が必要不可欠だが、ガリウム供給のほぼ全量を中国に押さえられている。また、弾薬の信管、ミサイルの赤外線誘導装置に使用されるアンチモンも中国によってその供給をほぼ握られている。
影響は軍事産業に留まらない。ガリウム、ゲルマニウムは半導体、光ファイバーの製造に必要不可欠だ。中国からの供給が止まれば、5G基地局、データセンター向け部品の生産に支障をきたすことになる。特殊鋼、液晶、電子部品、小型モーターに使われるレアアース磁石、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、超硬工具などにもレアアース・レアメタルが使われるが、それらの供給が厳しく制限されれば関連製品の価格はやがて急騰し、同時に品不足が発生するだろう。
トランプ政権は4月30日、ウクライナとの間で、ウクライナ天然資源に関する協定を結んだ。リチウム電池などの電極として使われるグラファイトや、チタン、リチウムなどのレアメタルの共同開発が米国側の狙いのようだ。ただ、米国が最も必要とするのは中国の供給支配力がより強いレアアースである。しかし、このレアアースについては現在のところ採算が合うと認められた鉱床はない。今後、開発を進めることで、発見される可能性はあるだろうが、開発に必要となる技術の多くが中国側にあるといった難点もある。
一方中国は、一部のハイテク技術、製品において手薄な部分がある。たとえば、一部の先端半導体装置、高性能半導体チップは国内では生産できない。米国による同盟国を巻き込んだ対中輸出規制は、AI開発、高速通信、スーパーコンピュータといったハイテク産業の発展を阻害する要因となる。また、CTスキャンなどの医療用高精度機器、航空機用レアアース加工技術や、精密部品、GPS制御技術を含む農業機械、大型車両なども、米国への依存度が高い。そのほか、自国で生産しているものの、供給量が足りない原油・液化天然ガス・石炭などのエネルギー関連も米国に依存している。