家族を“買う”ことが認められる社会に
橘:もっとも劇的に変化しているのは「家族」についての価値観かもしれません。家族を“買う”ことって、実はすでに行われているんですよね。
海外では代理出産や体外受精が盛んですし、この先、人工子宮が開発されれば、市場から好ましい精子や卵子を購入し、いくらでも自分の子供をつくることができる。近い将来、子供をお金で“買う”ことに抵抗がない社会になってもおかしくありません。
山崎:「子供を得るためにお金を払う」と考えれば、不妊治療は“子供を買っている”という言い方もできるかもしれません。私自身、不妊治療に250万円ほど費やして2人の子を授かりました。経済的には苦労しましたが、幸福度は格段に上がっています。日本の新生児の10人に1人は不妊治療の結果とされているので、夫婦が望む幸せを手に入れるための“買い物”として、もっと社会的に許容されるべきだと思います。
それは介護も同じで、介護サービスや老人ホームにお金を投じることで家族が幸せになるなら、その“買い物”は悪いことではない。
橘:私もそうした価値観がもっと広がるといいと思っています。“自分らしく生きるのは素晴らしい”というリベラルな価値観が広がれば、“お金で買える大事な人”の幅がより広がっていくはずです。
山崎:健康で幸せな生活を送るために必要なのは、愛や友情、すなわち「よい人間関係」の構築。そして、それを維持すること。そのためにお金が使えるなら、使えばいいだけのこと。
「日本ではお金が汚いと思われている」という話もありましたが、労働の対価として得たお金を人間関係に使うのは決して汚くはないどころか、当たり前の営みでしょう。かけがえのない大切な人と愛や友情を構築して、それらを守るためにどうお金を使えばいいのか。いまこそ、私たち全員が、それを学び直すタイミングなのではないでしょうか。
■橘玲氏×FP山崎俊輔氏対談・前編:《愛はお金で買えるのか?「お金では買えないから価値がある」というが実際は…男性が女性に渡す「現金10万円」と「10万円分の指輪」の違い》から読む
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/作家。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』『幸福の「資本」論』『新・貧乏はお金持ち』など、お金と人生に関する著書多数。
山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)/ファイナンシャルプランナー。著書『ファイナンシャル・ウェルビーイング~幸せになる人のお金の考え方~』などで、お金と幸せに関して論じている。
作家・橘玲さん
ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さん
※女性セブン2025年5月29日号