失言で農水相を辞任した江藤拓氏(時事通信フォト)
なぜこんな失言をしてしまったのか──。江藤拓・農林水産相(当時)が、佐賀市内で行われた自民党の県連の集会で「私はコメを買ったことはありません。支援者の方がたくさんくださるので、まさに売るほどある」と発言し、コメの価格高騰に苦しむ人々の気持ちを逆撫で。地元・宮崎の有権者も含め、全方位から批判が殺到し、農水相を辞任するに至った。佐賀県在住のネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、地方における「食べ物をあげる」文化の先に失言があったのだろうと推測する。そのうえで、来たる参議院選挙への影響を予想する。
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江藤氏についてはなんという非常識な発言をするものだ……と大いに呆れましたが、「コメを買ったことがない」という事実については、まぁ、田舎はそんなもんだろうな……と思いました。江藤氏の地元・宮崎2区は、延岡市、日向市、西都市、児湯郡、東臼杵郡、西臼杵郡という九州最大の選挙区で、多くの農家が存在します。
江藤氏自身は父親である江藤隆美氏の地盤を継いだ2世議員ですが、元々隆美氏は小作農の家に生まれたといいます。そうしたことから農業に造詣の深い家庭で育ったわけで、コメの重要性についてはよく分かっているはず。それなのになぜあんなことを言ったのかといえば、選挙区の人への感謝の気持ちがあり、それをあの講演の中で表明したかったのでは、と推測されます。
「いつも支援者の皆さまには助けられております。ありがとうございます」という票目当てのリップサービスのつもりで言ったのでしょうが、明らかに世間、特に都会の感覚とはズレ過ぎていた。講演した場所がこれまた農業県である佐賀であったということも油断につながったのかもしれません。しかし、実際におコメをくれた支援者はさておき、そうでない選挙区の人、さらには宮崎県民にとってはもはや「宮崎の恥」とも映ったようで、地元の人たちの呆れ返る声も多数報じられています。
地方移住して仰天!次から次に食べ物がもらえる
同氏を擁護するつもりは毛頭ありませんが、地方における「食べ物をあげる文化」については、2020年11月に東京から佐賀県唐津市に拠点を移した私も身をもって知ることとなりました。都会では手作りのお菓子をもらうことはあっても、農産物・海産物・ジビエをもらうことなんてなかったからです。宮崎も当然同様でしょうし、全国の田舎ではそのような光景が当たり前のように展開されているのです。
私の場合、最初に仰天したのが、知り合いの若者が職場の同期と一緒に釣りに行った帰り、「中川さん、今家にいますか? 魚持って行きますよ」と電話してきたことです。するとすでにウロコを落とし、内臓を取った真鯛とメバルとカサゴをフリーザーバッグに入れて「どうぞ、食べてください」と渡してくれるではないですか。「エサ代とかガソリン代かかっているし、こんなのスーパーで買ったら合わせて3000円ぐらいするからお金払いますよ」と言っても渡してくるので、ありがたくいただいたのです。しかし、彼の上司の女性は「彼は捌いてきてくれるからいいんだけど、他の人は何もしないままくれるから迷惑なのよね」なんてことを言う状況。
その後は、伊万里市の農家が小屋を作るというのでその作業を手伝ったら、「畑から好きなだけ野菜を持ち帰って良い」と言われました。さらには椎茸まで取り放題。その後は冷凍庫に入ったイノシシの肉を大量にくれ、最後は30kgの玄米を「持っていきんしゃい」と言ってくれるのです。