ちょっぴり悪そうな佇まいだけでも「買い」と思える
白状すればこのステップ位置が苦手です。いや正確に言えば不慣れですから、当然ながらいつも始まりは慎重です。スリムなソロシートのシート高は765mm(非積載時)、車両重量は228kgというディメンション(寸法)。シートに跨がり、両足をピタリと地面に着けると、久し振りに乗るハーレーとは言え、ステップ位置を除けば、安心感があります。走り出して慎重にステップ位置を確認しながら、最初はゆるりゆるり。
しかし、ステップ位置になれてくると、“乗りやすい”という感覚が湧いてきます。とくに市街での走りは信号待ちでも、交差点での取り回しでもストレスを感じることがほとんどなく、本当に「乗りやすいなぁ」という感覚が味わえるのです。低めのシート高と足着きの良さ、そして低重心が排気量1252ccというビッグバイクに感じるプレッシャーというか、ハードルの高さを感じさせず、構えることなく気軽に走りを楽しむには最適なモデルとして体に馴染んでいきます。
一方でライディングスタイルの“フォワードコントロール”には正直、油断をすると足を置こうとしても空振りもあります。足を前方に投げ出し、ハンドルも少し遠いので、どことのなく前屈運動のようになるライディングスタイルになります。そのスタイルになれるには、やはり少し時間を要するようです。その反面、街のウインドウに映し出される我が身のライディングスタイルを見ると悲しいかな「やっぱり手足が長く、大柄な人向けなのかな……」とも感じてしまう。先程もいいましたが“膝の下にくるぶしが位置する”スポーティーなライディングスタイル“ミッドコントロール”というポジションが似合いますし、小柄な人にも扱いやすいとも感じます。
ライディングポジションの基準ともいえるのが「スポーツネイキッド」タイプの乗車姿勢です。上体は軽く前傾し、ステップ位置はヒザより後方にあります。ヒザでしっかりとガソリンタンクを挟み、車体との一体感を得やすいポジションに慣れていると、ハーレーのライディングスタイルが体に定着するまで、どうしても時間を要することになります。もちろん仕方がないことなのですが、一旦体が覚えてしまえば、今度はハーレー独特の世界観にどっぷりと浸かることができます。
そんなことを考えながらどんどん距離が伸びます。ポジションも取り回しもどんどん体に馴染んでいくのです。同時に太めの前後のタイヤによって、少しだけバタついたというか、弾むような感覚のあった乗り味にも慣れてきたところで、Vツインの鼓動を感じながら、足を伸ばして、高速や郊外のルートをゆったりとクルージング。この時に「やっぱりハーレーっていいなぁ」という気分になるのです。
しばらく走り回り休憩スペースに滑り込みます。サイドスタンドを引き出して、ボディを預けるのですが、最初は「左に倒れるんじゃないか」と心配になるほど車体が傾きます。でもそれさえもカッコ良く見えるのです。フロントから見てもサイドから見ても、まさに押し出し感たっぷりの佇まいで、惚れ惚れとします。慣れるまで感じていた少しばかりの乗りにくさなど、このスタイルがあれば「すべて許せる」。
風の音や流れる空気の匂い、そしてスポーツスターSでVツインエンジンの鼓動を感じながらのツーリングは、どこか大勢に流されない「反逆」を感じながら走れるカッコよさがあったように感じました。その対価としての価格は199万8800円。ハーレーの中にあってはお安い方です。このバイクにしか醸し出せない時間を手にするにはそれほど高くは感じませんでした。
V型ツインエンジンから伸びるアップマフラー。さらにリアの足まわり周辺や切り詰められたシートが創り出す独特の凝縮感によってスポーティーに見える