クラシカルなブリティッシュスタイルと最新テクノロジーが融合したSpeed Twin 900。フロントに18インチホイールを与え、安定感のある外観はシンプルにしてスリム。いかにも扱いやすそうな佇まいだ
1885年、ロンドン設立された輸入貿易会社に、そのルーツを持つトライアンフ・モーターサイクルズ(以下、トライアンフ)。1902年には自社のフレームに他社製エンジンを搭載してオートバイ製造を開始し、今年で123年目を迎える、まさに世界最古とも言えるオートバイメーカー。いつの時代もトライアンフから送り出されてくる個性豊かなオートバイは、魅力的な基本デザインとオートバイの本質的な走り、そしてカリスマ性を調和させながら、歴史を紡いできた。
その結果、現在では英国最大のオートバイメーカーへと成長し、世界に約800店舗のディーラー網を展開している。そんなトライアンフを支える魅力的なモデルが今年も、JAIA(日本自動車輸入組合)の輸入車試乗会会場に並んだ。シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」、今回は自動車ライターの佐藤篤司氏が「トライアンフ・スピードツイン900」を試乗し、そこで感じたことをレポートする。
独特の鼓動感が生み出すオートバイとの一体感
初めて跨がったオートバイといえばホンダの「スーパーカブ50」でした。少年時代には自転車だけで経験していた世界を、排気量がわずか50ccの小さなエンジンを積んだスーパーカブが一気に広げてくれ、どこまでも駆けていけるような“無限の可能性”を感じさせてくれました。以来、オートバイの魅力にはまり、多少の中断はあったものの、4輪と共にいつも傍らにありました。
そんな中でトライアンフといえば若き頃の“憧れ”を彷彿とさせ、そして育んできた存在。1960年代中盤まで世界最速の称号を得ていたトライアンフでしたが1968年、ホンダの「CB750FOUR」が登場し、世界最速市販バイクの称号を譲ってからは、まさに紆余曲折。日本メーカーの台頭と反比例するかのようにトライアンフを始めとしたイギリスのバイクメーカーの力は衰えていったのです。
しかし、そんな波瀾万丈とも言える歴史の中でもトライアンフは復活。その中心にあったのが旧き良き時代のトライアンフを彷彿させるバーチカルツイン・エンジンを搭載したモデルです。ちなみにバーチカルツインとは、直立(バーチカル)した2つのシリンダーが左右に並んでいる並列2気筒エンジンで、70年以上にもわたり生産されてきた伝統のエンジン形式です。
4気筒エンジンよりもコンパクトなサイズで高出力を実現可能で、高いトルクを発揮するため、低速からの加速や坂道走行が得意。さらに、2つのシリンダーで吸気や排気が交互に行われるため、エンジンの回転が安定し、燃費の向上にもつながると同時に高いトルクを生み出すことができるのです。古くからバーチカルツイン・エンジンがスポーツバイクやスポーツカーなど、その時代の高性能車に使用されることが多かったのはこうした利点があったからです。もちろん吸気と排気が交互に行われることで独特の「ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……」といった心地いい鼓動感を生み出します。このバーチカルツインの独特の味わいを先頭に立って守り続けてきたと言えるのがトライアンフなのです。
個人的には4気筒のマルチシリンダーエンジンの「ホンダCB750FOUR」や「カワサキZ2(Z750FOUR)」も所有しました。その一方でバーチカルツインへの思いも断ちがたく「ヤマハXS650」とか「ホンダCB350エクスポート」などを中古で乗っていたこともありました。まぁ、4輪に飽きると、晴天を見計らって2輪でふらりと出掛けるという乗り物ライフを楽しんでいました。時折、バイク本来の「人馬一体感」は4気筒エンジンより、バーチカルツインの方が、まるで馬が全速力で走るギャロップにも似ていて、より強烈に感じるのです。独特の振動とエンジン音、そして細く身軽な車体によるヒラリヒラリとした操縦性は実に心地いい感触です。だからこそ、年に一度のJAIA試乗会でトライアンフとの逢瀬を楽しむのです。