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住まい・不動産

「渋谷の北朝鮮」と揶揄された「秀和幡ヶ谷レジデンス」 入居時に面談・荷物漁り、防犯カメラで常時監視…理事会の“理不尽ルール”と戦った住民たちの1200日間戦争

防犯カメラも多く設置されていた(写真提供:毎日新聞出版)

防犯カメラも多く設置されていた(写真提供:毎日新聞出版)

勉強しすぎて住民に「講演依頼」

 理事会側の異常とも取れる行動に対して、栗田氏は「理事会が完全に悪いとは断言出来ない」とも話す。

「現地でマンションを見ると、築50年超という築古物件にもかかわらず、外観や建物内が驚くほど綺麗に整備されているんです。理事長のマンションへの愛情が大きかったことは確かでしょう。そのことが、管理の徹底に繋がっていった側面は確かにあった。

 理事会が敷く“異常”な体制に疑問を持ちながらも、それに慣れてしまい、無関心なまま委任状を理事会に預けていた一部の住民にも問題があったように思います。居住区で、住民同士のトラブルに巻き込まれたくない気持ちはよく分かります。しかし、不満を漏らすだけでは何も変わらない。秀和幡ヶ谷レジデンスの問題は、日本の自治や村社会といった問題にも通ずる部分が大いにあり、その解決策という点で非常に示唆に富んだものでもありました」

 そんな管理体制に対抗するために一部の住民たちが立ち上がり始めた。栗田氏はそんな住民たちのマンション管理や自治における圧倒的な知識量に驚かされたと明かす。

「理事会メンバーの交代を求めて、住民たちは委任状の確保に動き始めるのですが、そのために住民たちはマンション管理や法律に関する勉強を本当にゼロの状態から始めました。にもかかわらず、話を聞いていても非常に詳しいという印象を受けましたね。この本がきっかけで、今では“政権交代”に導いた一部の住民の方に、自治についての講演オファーまで相次いでいるくらいですから(笑)。当然並大抵の努力ではなく、その知識量や経験が自治問題に関心がある方々に届いて欲しいと願っています」

 マンションでの住民トラブルに困った人にもぜひ読んでほしいという。

「執筆するうえで、マンション管理問題のハウツー要素も詳細に残そうと意識を持って臨みました。住民側が管理組合に勝利する例はほとんどなく、マンショントラブルで泣き寝入りしている区分所有者も多いからです。この本はマンション管理問題を住民たちの力で解決した成功例の記録でもあります。そのため、専門的な部分や闘争の前端についても細かく、分かりやすく書きました。

 ただ、法律的な内容を入れすぎて読みにくくなることは避けて、そうした表現は可能な限り柔らかくしました。ノンフィクションを読むことに慣れていない方でも一気読み出来るよう、登場する人たちの個性を追求し、それぞれのキャラクターを際立たせて描くことでエンタメ要素を強く出しました。秀和幡ヶ谷レジデンスのケースは、築古のマンションが増えていく今後の日本では決して他人事ではなく、誰にでも降りかかる可能性を秘めています。ニッチと思われがちなテーマではありますが、政治や組織論など日々の生活で疑問を感じるような普遍性も散りばめているので、自分ごととして読んでもらえたら嬉しいです」

『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(写真提供:毎日新聞出版)

『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(写真提供:毎日新聞出版)

【プロフィール】
栗田シメイ(くりた・しめい)/ノンフィクションライター。1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経て現職。スポーツや政治、経済、事件、海外情勢など幅広く取材する。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』など。

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