誰かが笑うまで笑ってはいけない雰囲気
私のセミナーでは、インターネット上の過去のバカバカしい炎上騒動を紹介したり、どのような見出しをコンテンツにつけるとアクセス数が上がるか、といった話をしていました。かなり下世話な話が多い(実践的です)ので、思わず笑ってしまうようなこともあるんですよ。それこそ、「足がクサいことを自虐的に川柳でまとめるコンテストを靴下メーカーが開催した話」とか、そういったものです。
他にも「こんな非常識人がいるの???」と思うようなネット炎上の話なども、当事者にとっては苦しかったかもしれませんが、客観的に見ると笑えたりする。こうした事例を紹介するのですが、これらのネタを出すと受講生は周りを見るんですよ。一人笑っている人がいると「あぁ、私も笑っていいんだな」と笑い、それが連鎖してようやく笑いが教室内に発生する。
皆さん組織を背負って参加しているという意識が強いのか、「我」を出してはいけないと考えているように感じられました。だから、講義時間内の5分早めに質疑応答の時間を作っても、質問をしてこない。2017年ぐらいまでは案外質問は飛び交ったのですが、それ以降は質問は滅多になく、終わった後にこちらにやってきて個別に質問をしたりする。
この2017年というのに特段意味はないでしょうが、会社を代表して来ているのに、周囲からアホだと思われる質問をしたくない、という表れだと感じられました。自由闊達な議論を敬遠するような傾向が、この頃から顕著になってきたように思えます。どう考えても私が語るネットの珍騒動とかは質問があっておかしくないようなものばかりなんですが……。
それこそ「なんで『バカッター』は永遠に終わらないのですか?」「フェイクニュースかどうかの見分け方を教えてください」は、定番の質問事項としてあっていい。しかし、質問が来ない。「それはお前の講義が役に立たないからだよ(笑)」という声があるのも分かりますが、2017年以前はそんなことはなかったのです。
年々ビジネスパーソン向け講座で受講生の熱量が下がってくるのを目の当たりにして、2021年以降はそうした依頼をすべて断るようにしました。そりゃあ、自分の知っていることを語ってそれなりの時給をもらえるのはありがたい仕事です。でも、やる気のない人々の姿を見続けるのがキツくなったんですよね。
というわけで、企業はセミナーには自ら行きたいと考える人だけを派遣してくだされば、講師陣もやる気を出すと思います。正直、嫌々参加している受講生を相手にするのは講師としてもかなり厳しいと思います。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。