需要喪失を吸収できるだけの余裕のある需要先を開拓
トランプ政権は第一次政権以来、米中デカップリングを進めようとしているが、中国側は表向きは受け身の姿勢を示してきた。しかし、中国は技術開発を進めることで、太陽電池、EV、通信機器、スマホ、家電などの国際競争を高めると同時に、官民一体となって新興国向けに従来型の鉄道、道路、電力設備といったインフラや、移動通信システム、データセンターなどのデジタルインフラなどの輸出を積極的に拡大させた。アフリカ、南米などレアアース、レアメタルなどの重要資源供給国に対する投資を拡大させ、資金面では国家による資金援助、金融機関を通じた積極的な貸出などで資金調達の一部を手助けした。
習近平国家主席が2013年9月に提唱し、その後国家政策となった一帯一路戦略。古代から続く陸、海のシルクロードの周辺国を一体化させ巨大な経済圏を構築しようとする構想だが、当初は中央アジアから東欧にかけて(陸路)、インド、東南アジアからアフリカ、中東、イタリアにかけて(海路)の周辺国が対象であった。
それが、一帯一路建設工作領導小組弁公室が主管部門となり、国家発展改革委員会、新華社通信が指導し、中国経済情報社、国家情報センターが運営する中国一帯一路網によれば、アジアでは韓国を含む41カ国、アフリカは52か国、欧州はギリシャ、ポルトガル、イタリアを含む27カ国にまで関連国家が広がっており、更に本来の一帯一路周辺地域を超えて、北米ではパナマ、ドミニカ、キューバなど13カ国、南米ではアルゼンチン、ブラジル、ペルー、チリなど11カ国、太平洋海洋国12カ国にまで対象国が広げられている。
米国が自国第一主義を進める中で、中国はひたすら経済的利益によって緩やかに結びつく大きな経済圏を作り上げようとしており、その成果として米国の相互関税措置による需要喪失を吸収できるだけの余裕のある大きな需要先を開拓している。
もちろん、今後の経済発展見通しについて、極端な楽観はできない。米国有権者の総意としてトランプ政権が存在する以上、トランプ後も米国において“米国第一主義”が続く可能性を否定できず、そうなれば米国市場の喪失が長期化しそうだ。対米輸出は減少しても、最先端半導体技術などの依存は最後まで残る。米国の意思に基づく同盟国を通じた対中加圧、EUのサプライチェーン分散を目的としたリスク削減戦略、新興市場における債務問題、政情不安による影響も不安材料だ。ただ、こうした問題点は今になって突然発生したものではなく、中国側も対応策を持ち合わせている。さらに、中国がレアアースの独占的な供給力を持つ点で、米国の弱点を抑えている。