最終的に割を食うのは消費者か
配達員の酒気帯び状態での勤務を見逃してきた日本郵便の「不適切点呼」問題。全国の郵便局で違反が常態化していたことを受け、国は日本郵便の運送事業許可を取り消す処分を下した。実はこの重い処分の裏に、宅配の一角を担う「ゆうパック」を廃止するという政府の思惑があると指摘されている。それにより、国民は大きな負担増を強いられる可能性があるというのだ──。
唐突に浮上した「置き配標準化」の狙い
政府や財務省、日本郵政や郵便局長会などの利害が一致するのが「ゆうパックの廃止」だというが、消費者にはマイナスの要素が大きい。流通経済大学教授で、国交省の有識者会議にも参加する矢野裕児氏はこう語る。
「廃止されれば、全国2割を占める宅配便の担い手が消えます。すると3社が競い合うことでこれまで一定程度に抑えられていた価格は、競争相手が減ることでどんどん引き上げられる可能性があります」
ゆうパック廃止が宅配サービスの“値上げドミノ”を引き起こすとの指摘だ。
日本郵便に改めて問うと、「ゆうパックのサービスは維持されます」としたうえで、「料金は現状のまま維持されます。新たに委託が増えることによる委託料増加の影響額については精査中でございます」(広報宣伝部)と回答した。
日本郵便はそう否定するが、見逃せないのはこのタイミングでいきなり浮上した「置き配標準化」というもう一つの動きだ。
「人手不足を背景に、玄関前などに届ける『置き配』を、宅配便の標準サービスにする検討を国交省が始めたと報じられました」(社会部記者)
盗難などのリスクもある置き配だが、標準化が進めば結果としてゆうパック廃止への地ならしにもなると見られている。
宅配業界では、ヤマト、佐川の上位2社が、3位の日本郵便の撤退を手放しで喜べる状況にはない。ただでさえ人手不足で物流網への負担が大きいなか、取扱量が急に2割以上も上乗せされればコスト増のデメリットのほうが大きくなりかねないからだ。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏はこう指摘する。
「そうしたなかで置き配が標準化されれば、宅配事業者は『置き配は無料』『対面手渡しは有料のオプションサービス』というかたちで事実上の“値上げ”を実施しやすくなる。このタイミングで標準化が浮上したことには、将来のゆうパック廃止を見越した狙いも透けて見えます」
ここでも割を食うのは消費者だ。戦略物流専門家でイー・ロジット会長の角井亮一氏も言う。
「置き配標準化により配達員からの対面引き渡しが有料のオプションになることは十分にあり得ます。私の想定では、500円以上の追加料金になることも考えられます」
宅配便の利用者にとって、あまりに荷が重い未来ではないか。
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※週刊ポスト2025年7月18・25日号