「何回言われたらわかるの?」「ダメって言ったよね」
公認心理師・臨床発達心理士であり、東京都の特別支援学校教諭を務める川上康則氏は学校でおこなわれるマルトリートメントを「教室マルトリートメント」と名づけました。 著書の『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)において以下のような言葉を投げかけることとしています。
●質問形式で問い詰めるような毒語
「何回言われたらわかるの?」「どうしてそういうことをするの?」「ねぇ、何やってるの?」
●脅して動かそうとするような毒語
「早くしないと、○○させないから」「じゃあ、○○できなくなるけどいいんだね」
●本当の意図を語らずに、裏を読ませるような毒語
「やる気がないんだったら、もうやらなくていいから(→本当は「やりなさい」)」「勝手にすれば(→本当は「勝手なことは許さない」)」
●下学年の子と比較するような毒語
「そんなこと1年生でもやりません」「そんな子は1年生からやり直してください」
●指導者側に責任がないことを強調するような毒語
「ダメって言ったよね」「もうやらないはずだったよね」
誰しもが聞いたことのある、言ってしまいそうなセリフが並んでいると思います。つまり、誰しもがマルトリートメントに関わる可能性があることになります。何気ない一言がその人を傷つけてしまうことが起こってしまいかねないのです。
家庭での虐待が複雑な要因で起こっているのと同じく、学校でも教師自身の問題というよりも上意下達的な教育行政の影響下で起きるものであり、システムや構造の問題だと川上氏は指摘しています。
ウェルビーイングの実現を目標におこなわれている学校教育では、虐待やマルトリートメントを防がなければなりません。
また、多くの自殺者や不登校の子どもたちであふれている現在、学校だけではなく、家庭や職場などあらゆる場面でマルトリートメントをなくしていくことが重要です。それが、不幸な人を減らし、不幸な連鎖を止め、よりよい社会を実現する一歩になるはずです。
※宮田純也書『教育ビジネス 子育て世代から専門家まで楽しめる教育の教養』(クロスメディア・パブリッシング)から一部抜粋して再構成
【プロフィール】
宮田純也(みやた・なおや)/一般社団法人未来の先生フォーラム代表理事・学校法人宇都宮海星学園理事・横浜市立大学特任准教授。早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7000万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関するさまざまな企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにしてなど、さまざまな立場や役割で教育改革を推進している。編著に『SCHOOL SHIFT』『SCHOOL SHIFT 2』(明治図書出版)、監修書に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著:東洋経済新報社)。