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田代尚機のチャイナ・リサーチ

深刻なデフレに見舞われる中国経済の打開策 超大型水力発電プロジェクト、供給側に働きかける“反内巻”政策が材料視され業績不振銘柄も物色対象に

株式市場で材料視される大規模建設工事

 チベット自治区ヤルンツァンポ川下流・水力発電プロジェクトの着工式典が7月19日、李強首相が出席する中で実施された。唐突で大々的なマスコミ報道が材料視され、チベット自治区政府系のセメントメーカーである西蔵天路(A株)の株価は7月21日から5営業日連続でストップ高を付けた。7月下旬から8月前半にかけてセメント、鉄鋼、建設など広範なセクター、銘柄で株価は大きなボラティティを示すこととなった。

 川の湾曲した部分を直線的に切り崩し、トンネル内に水を引き込む工法で五段の発電所を建設する。投資総額は約1兆2000億元(24兆6000億円、1元=20.5円で計算)に及ぶ。本土アナリストたちは、工事期間を20年前後と仮定すればこの地域のセメント生産量の10%前後に相当する年間100万~200万トン程度のセメント需要が発生すると見込んでいる。

 さらに、青海省とチベットを結ぶ青蔵鉄道に続き、2025年11月着工予定である新疆、チベットを結ぶ新蔵鉄道の建設も材料視された。開発会社(新蔵鉄路有限公司)が8月7日、950億元(1兆9475億円)の資本金で設立されたが、投資総額は3000~3500億元(6兆1500億~7兆1750億円)に上ると推定され、株式市場では建設、建材、機械などのセクターに資金が流入した。

足元で広範に業績不振銘柄が買われている理由

 こうした大規模建設工事がデフレ対策の一環であることは明らかだ。ただ、従来型のインフラ投資拡大政策は不動産不況により疲弊している政府財政を更に悪化させかねない。そこで中央政府は別の支援策として、供給側に働きかける“反内巻”政策を本格的に打ち出そうとしている。株式市場ではこちらの政策に対する関心も高く、足元で広範に業績不振銘柄が買われているのは“反内巻”政策への期待によるところが大きい。

 内巻とは、中国国内市場で頻繁にみられる“悪性の内部競争”を指す言葉である。少し補足しておくと、ある特定の産業において、企業が有限の資源、ビジネスチャンスを奪い合い、利益を度外視しシェアの確保を目指し過度な生産拡大競争を行うことであり、最終的には資源を浪費し、経済効率性を大きく引き下げてしまうような悪性の競争である。2024年7月30日の政治局会議において、習近平国家主席が初めてこうした“悪性の内部競争”を防止しなければならないと発言、その後、12月に開かれた中央経済工作会議、今年の全人代において“反内巻”政策の重要性が強調され、主管部門も具体的な政策方針を発表し始めている。

 投資家目線でいえば、当局による直接的な巨額の水力発電プロジェクト、鉄道建設による需要創出よりも、広範のセクターに影響が及び、企業業績へのインパクトがより大きいとみられる“反内巻”政策の方が魅力的だ。当局が需要拡大に加え、根本的な部分から本格的に生産過剰を抑えようとしている以上、デフレ脱却は近いと予想する。

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 関連記事《【田代尚機氏の厳選!中国株】“反内巻”政策で業績好転への期待が高まる3銘柄 セメントメーカーから太陽光パネルガラスメーカーまで》では、“反内巻”政策の具体的な内容と、そこで恩恵を受けるセクター・銘柄について田代氏が詳しく解説している。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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