ヤクザは税金を払っている
鈴木:裏の商売はとにかく、トラブルを自己解決しなければなりません。裏ビデオや違法コピーのDVDを販売している業者が盗難に遭っても、警察に行けない。ヤクザだって縄張りを奪われても、警察に泣きつけない。縄張りを死守する必要があるのは、生きるための米櫃を自分でしか守れないからです。
警察が介入できない一種の聖域だから、暴力があれば他団体のシノギも奪えます。極端な弱肉強食がヤクザの原理原則であり、彼らの言う筋は、強い側の言い分でしかありません。これほど極端で不安定な生き方をしていれば、「正業を持て」と言いたくなる。
溝口:実際には、警察が伝統的資金源と定義する前から、危機感を持った(三代目山口組組長の)田岡(一雄)はそう言っていたんだけども。田岡が言う正業は、建築関係であろうと、港湾事業であろうと、家畜の飼養だろうと、なんでもいいんです。
鈴木:税金を払って、警察に突っ込まれても問題なく、堂々とマネーを稼げる仕事ですよね。その場合、会社であり法人だから、当然、税金も払う。税理士もついてます。
溝口:ヤクザの多くは税金を払わないという、そういうイメージがあると思うけども、組長クラスは払っている人が多いと思います。というのは、僕は、竹中武(山口組四代目組長・竹中正久の弟で二代目竹中組組長)から聞いたんだけど、税務署は怖いから絶対払うんだと。「うちの兄貴(竹中正久)に、税金を払ったほうがいいよって、おれは忠告していた」と。しかしながら、兄貴は横着して、野球賭博で脱税であげられることになってしまった。そういうことがあるから、ヤクザは税金を払っておかなくちゃいけないという考え方が定着した。
鈴木:もちろん、非合法な収益を申告することはないので、税金は正業を営んでいる場合に限られます。今月は覚醒剤が百万円売れて、仕入れがこのくらいで……なんてしません。ただ、ヤクザは昔から懲役を税金と考えていました。普段、無税で稼いでいるのだから、時折、刑務所にぶち込まれるのは致し方ないというわけです。
■後編記事につづく:ヤクザが逮捕されると「住所不定無職」と報道されるワケ 暴排条例で正業が禁止されたことによる影響
【プロフィール】
溝口敦(みぞぐち・あつし)/1942年東京都生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』など。
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。日本大学藝術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めたのち、フリーに。著書に『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)などがある。8月22日19時から、マネーポストWEB「プレミアム会員限定」ライブ動画配信『《司忍組長の内部資料も公開》ヤクザとマネー~最強組織・山口組のビジネスモデル~』に登場予定。