だが、日本文化の粋とも言える日本酒の酒蔵が中国企業に渡ってしまうことに、心配すべき点はないのだろうか。酒蔵の事業継承に詳しい酒類ジャーナリストは「うまく回れば親和性はある」とした上で、次のように説明する。
「資本と技術が補完し合えば、再生につながる可能性は大いにあります。ただし、酒蔵経営には味の継承も含めて日本的な感覚が不可欠。業界には義理と人情を重んじる封建的な要素が強く残っており、農家との交渉も阿吽の呼吸が基本です。そのため、通訳を挟むことすら嫌がられる。外資が入ることで、従来の人間関係が崩れるリスクは否定できません」
酒米の高騰や後継者不足で、今後もM&Aは増えると予測される。
「日本酒の材料となるお米は、田植えの前に代金を先払いしないと売ってもらえません。酒米は収穫量が特に少なく、確保が難しい。経営が苦しい酒蔵は確実に増えています」(同前)
日本酒の国内消費量は下降の一途をたどっており、ピーク時の1970年代と比べ4分の1まで減少した。多くの酒蔵が経営者の高齢化と後継者不足に悩み、現状を打開できずにいるのだ。
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【プロフィール】
西谷格(にしたに・ただす)/1981年、神奈川県出身。ジャーナリスト。早大卒業後、地方紙記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。最新刊『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2025年9月12日号