妹の“悪魔のささやき”でいきなり退職
ところが、誰もが羨やむ職を得た長女は数年後、親に相談することなく仕事を辞めてしまう。役所の入庁式では新入職員代表としてローカルテレビ局のインタビューを受け、卒業大学のホームページに「○○市役所に内定」と掲載されるほど堅実でマジメなタイプだったが、何があったのか。Tさんが振り返る。
「長女とは対照的に、次女は高校卒業後、家を出て関東で専門学校に通い、医療系の国家資格を取りました。そんな次女が実家に帰ってきた時、都会の一人暮らしの楽しさ、年齢の割に稼げること、人手が足りないので職場が選び放題なことなどを話したら、長女が見事に感化され、勢いで公務員を辞めてしまったんです。妹より勉強が得意だったので、資格も簡単に取れると思ったんでしょう」
過疎と高齢化が進む地方都市在住の若者が、モノや情報に溢れた都会に出たがるのも無理はない。両親は娘が安定した職を捨てたことを嘆いたものの、“辞めてしまったものは仕方ない”と受け入れたが、長女の決断は典型的な“隣の芝生は青く見える”だった。
「上京し、最短期間で国家資格を取るまでは予定通りでしたが、問題はそこからでした。就職活動では『なぜ公務員を辞めたのか』と散々聞かれ、何か問題を起こしたのではと疑われる始末。勤め先が決まると、今度は現場で利用者からセクハラを受け、しかも上司からは“やり過ごすのもスキルのうち”と言われて、一時は精神的に参っていました。業務では利用者との身体的接触が避けられないので、『私には無理』『向いてなかったかも……』と弱音を吐きまくっています。
憧れた都会生活も、全然なじめていないようです。繰り返し話すのは“都会はスピード感が違う”ということ。電車が2~3分遅れるだけでイライラする人や、猛スピードで台車を押す宅配便の配達員を見るたびに“何であんなに急いでいるんだろう”と感じてしまい、“都会はくたびれて仕方ない”とか。家賃も物価も高いので、自由になるお金は実家にいた時より大幅に減るなど踏んだり蹴ったりですが、親に相談せずに公務員を辞めた手前、“今さら地元には帰れない”と思っている様子です」
いざとなれば、Tさんは長女を地元に呼び戻すつもりだが、長女が公務員を辞めたことは近所に知れ渡っており、出戻った際には何か言われることは必至。Tさんは「そういったことまで含めて、若い子は田舎がイヤなのかもしれません」と語っている。