近年は、認知症になった人の預金を家族らが代理で引き出せるような仕組みも整いつつある。司法書士の村山澄江氏が解説する。
「2021年に全国銀行協会が出した指針を受け、金融機関の対応は比較的柔軟になっています。ただし、引き出す預金の使途は本人の医療費や介護費など、生活維持に必要な範囲に限定されています。また、『代理人指定届』の提出により、取引店以外の支店や全国のATMでも使用可能な専用の『代理人カード』を発行する金融機関が増えました」
介護を担う子や家族らにとっては使い勝手の良い制度だが、この代理人指定届にも本人の銀行印は必要だ。A氏の父のような紛失ケースではどうすれば良いのか。
「必要書類を用意して親御さんと窓口に出向き、持参した新しい印鑑で『改印手続き』を行なうのが最もスムーズです」
本人以外が代理で行なうのは非常に困難なので、銀行印を紛失した場合は早いうちに改印の手続きをしておく必要がある。
「認知症などが進行して本人が窓口に行けず、委任状も書けない状況であれば、銀行側からは『成年後見制度』の利用を勧められる可能性が高いでしょう。成年後見人であれば、法定代理人として銀行印の届出も正式にできるようになります」
こうした面倒な事態を見越し、口座をまとめることも大切だという。
「口座が複数あるとその分、手続きも面倒になります。あらかじめ預貯金口座は2~3行にまとめておくことが望ましい」(同前)
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※週刊ポスト2025年10月31日号