総合型でも大学が学生に求めるのは体験ではなく学力
しかし、少なくとも難関私立大学の総合型選抜は、「文献を読み込んで論文を書く」ことをしてきたような学生に有利な入試だ。大学入学後の学びは文献を読んでレポートを書くことがメインになるから、それができるかを測る。
そのためには文章読解の学力が必要だ。英語の授業もあるから英語力も必要だ。その学力を測るのが総合型選抜であって、「親のお金で海外ボランティアに行きました」ということが評価されるわけはないだろう。
総合型選抜は入試の内容がクローズなので、誤解を生みやすい。それを利用して、「総合型選抜では“体験”が必要ですよ」という業者が出てくる。
実際、あるオンライン塾の説明会では、発展途上国の電気も通ってない村での海外研修プログラムを紹介し、「こういう体験をした生徒を大学も求めている」と話した。
だが、大学が求めるのはあくまでも「学力が高い学生」なのだ。一般入試では私立文系は英語、社会、国語のペーパーテストなので暗記が必要になるが、総合型選抜はその暗記の部分が苦手でも、文献の読み書きができる“学力”が高ければ合格できる。
ある難関大学の教授はいう。
「学生には難解な本を読ませることをゼミでしたときに、最後までついてきたのは総合型選抜で入学してきた学生でした。その学生は英語の成績は振るわないのですが、文献を読む力は抜群でした。そういう学生を見ると総合型選抜の意義を実感できます」
それが語られないのは、単にそこに「ビジネスチャンス」がないからではないか。
難関校の生徒たちのように文献をスラスラ読むことができない層に、「勉強ができなくても、本が読めなくても、体験をさせれば総合型選抜で難関大学に進学できますよ」という体験を売るビジネスは利ざやがいいのだ。
今回は「体験を売るビジネス」業者が総合型選抜対策と謳って、体験を売ろうとしている現状について書いた。大学が欲しいのは学力が高い生徒であり、ただ、その学力を測る観点が一般選抜とは違うのが総合型選抜なのである。
次回は総合型選抜が拡大する中での新しい動きについて言及する。
■後編記事を読む:文部科学省が「推薦入試でも学力試験を認めた」ことで学力重視への流れが鮮明に 推薦入試全盛の時代に多くの中堅大学が「年内学力入試」に参入する事情
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも日々更新中。