東京都心部の不動産価格は右肩上がりが続いている。9月に公表された基準地価では、都内は全用途平均で前年比7.7%の上昇を記録した。ただ、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏(オラガ総研代表)は、「今後も東京都の地価が全面的に一本調子で上がっていくとは考えにくい」と指摘し、近接するエリアでも「街」ごとの明暗が鮮明になっていくと見通している。
少子高齢化が進むなか、東京都の人口も2040年頃にはピークアウトするとされているが、『街間格差』(中公新書)の著書がある牧野氏はこう言う。
「そもそも、足元で東京都の人口が増えている要因として外国人の流入が大きい。金融危機や災害、感染症の大流行などがあればストップしかねない要因で、東京都全体の人口増、地価上昇に寄与し続けるとは考えにくい。
そうしたなか、私は『新陳代謝』と表現していますが、転入する人と転出する人が両方いる、という動きがなくなる街から地価が伸びなくなっていくでしょう。人気がある街の地価は上がる一方、人の動きがなくて全体的に高齢化したり、空き住居が増えていくようなエリアが出てくる。東京都全体の地価が上がっていくシナリオは描きづらいのです」(以下、「」内コメントは牧野氏)
牧野氏は東京23区であっても、同じ区内で“明暗”が分かれるようになると考えている。それを「街間格差」と表現する。
「住まいとして人気の世田谷区だから大丈夫、といった考え方ではなく、“世田谷区のなかでどこがいいのか”という議論になっていくと考えられます。しかも、働き方が柔軟になるなかで、これまでのようにただ単に職場への通勤の利便性だけで評価される時代ではなくなります。
利便性に加えて、教育水準や環境、街としての歴史や行政が重点を置く施策など、住み心地の良さが魅力を放つ『輝く街』と、特徴を打ち出せないまま新陳代謝が悪くなっていく『くすむ街』に二分されていく。それが『街間格差』です」
今回は、東京23区のなかでも多くの高級住宅街を抱える世田谷区に関して、牧野氏が区内の「輝く街/くすむ街」を実名で挙げながら、先行きを解説していく。