行政にどのような説明をしていたのか(共生バンクグループの柳瀬健一・代表。ホームページより)
「週刊ポスト」が追及してきた不動産投資商品「みんなで大家さん」。高利回りを謳い、個人投資家から2000億円超を集めたものの、配当は4か月連続でストップ。事業への疑念を抱いた個人投資家らが、出資金の返還を求めて巨額訴訟に踏み切った。そんななか、取材を続けてきたノンフィクション作家の森功氏が、みんなで大家さん側のトップの発言を詳細に綴った重要資料を入手した。政治家や大企業との関係をちらつかせ、行政に迫った内容とは──。(文中敬称略)【前後編の前編】
ブラフをかけて煙に巻く
手元に2通の文書がある。いずれも詳細な議事録で、1通は2023年3月23日、もう1通は同年5月31日と記されている。いずれも大阪府都市整備部の課長たちによる共生バンクグループ代表の柳瀬健一(59)のヒアリング状況が記されている。
改めて説明するまでもなく柳瀬は最高経営責任者(CEO)として、不動産投資商品を扱う「みんなで大家さん販売」やファンド運用会社「都市綜研インベストファンド」を含む共生バンクグループを率いてきた。18号まであるみんなで大家さんの目玉商品「シリーズ成田」の配当がストップし、10月には投資家らへの説明が不十分だとして大阪府から行政指導を受けた。
目下、全国1191人の出資者が契約解除や出資金の114億円の返還を求める訴訟を起こしているのは周知の通りだ。シリーズ成田をはじめとしたファンドを使ってかき集めた2000億円ビジネスは風前の灯火といえる。
そのみんなで大家さんに関するくだんの文書について、大阪府に確認すると、行政処分や訴訟事案の関連文書は公開できないというが、文字通り行政とやりあった時の記録に違いない。その怪しげな投資事業への疑念は今に始まったことではなく、まさに2年前のこの記録がそれを如実に物語るのである。1通目の議事録の日時は3月23日(木)15:00だ。
〈先日こちらにお邪魔した後に、弁護士から通知が来て驚かれたと思う〉
柳瀬が詫びとも抗議ともとれる発言をし、会議が始まる。この時期、大阪府にはみんなで大家さんに関する疑問の声が寄せられ、対応に迫られていた。なかでも1580億円の投資をかき集めてきたシリーズ成田の「ゲートウェイ成田」構想は、ほとんど手つかずのままだ。なのに投資の配当だけが続いてきたことも摩訶不思議だった。
みんなで大家さんの柳瀬は、不動産特定共同事業法(不特法)に基づくビジネスを展開してきた。法の所管は国土交通省(国交省)だが、行政機関として直に対処してきたのは、ファンドの運用を許可した大阪府と販売事業の所轄官庁である東京都だ。大阪府が柳瀬に対して事情説明を求めたのは自然の流れだった。
だが、説明を求められた柳瀬は逆に行政サイドにブラフをかけ煙に巻く。
〈過去の経験からですね、国が解釈をする法律、または裁量権を行使してくるということになりますと、また大きな処分というものが起きて、当社だけでなくて事業参加者に対する被害というものも及ぶ可能性も高い。このように考えたときに、最終的にはやっぱり裁判になって国賠(国家賠償請求)にもなっていくことが想定される事態だと思っている〉(議事録より)
