難しい言葉を避けることは、価値を下げることにはならない
難しい概念も、身近な言葉に置き換えれば、確実に伝わっていきます。そのためには、相手の日常に寄り添う表現を見つけていく作業が必要です。
相手への「想像力」と「思いやり」こそが、まず目をとめてもらう鍵になります。
私はできるだけ多くの人に、共通して理解される表現を探して言葉をまとめることを心がけています。
具体的には、社会人1~3年目の自分を思い出して、新入社員でもわかる表現を心がけています。この年代は、学生時代の感覚も残しつつ、社会の仕組みを理解し始める時期。専門用語には慣れていないけれど、基本的な社会常識は身につけている。この層にわかる表現なら、より幅広い人に伝わると考えているからです。新聞記者時代には「中学生でもわかるように書きなさい」と先輩や上司から教わりました。
難しい言葉を避けて表現をわかりやすくするのは、決して表現の価値を下げることではありません。むしろ、本当に伝えたい価値を、より多くの人に届けるための工夫なのです。そうして磨かれた言葉は、結果としてより多くの人に届きます。
その言葉、本当に理解していますか?
自分自身が理解したつもりで使っている言葉の中にも、実は本当の意味で理解できていないものが潜んでいるかもしれません。何かを伝える前に、「なぜこの言葉を選んだのか?」を説明できるでしょうか。まず自分自身の理解度を疑ってみる。その謙虚さが、相手に届く言葉を選ぶための第一歩となるのです。
本当の「専門性」とは、むしろ相手の立場に立って価値を伝えられることにこそあります。しかし、これは単純に「具体的な表現のほうがよい」ということでもありません。場面によっては、抽象的な表現のほうが効果的なこともあります。
結局のところ、「言葉」は相手への思いやりの結晶です。厳密さや見た目のカッコよさにこだわるあまり、肝心の「伝わる」という目的を見失ってはいけません。相手の立場に立ち、相手の言葉で考え、相手の心に届く表現を選ぶ。その丁寧な積み重ねが、確実に伝わる言葉を生み出していくのです。
※武政秀明・著『22文字で、ふつうの「ちくわ」をトレンドにしてください』(サンマーク出版)より一部抜粋して再構成
『22文字で、ふつうの「ちくわ」をトレンドにしてください』著者の武政秀明氏
【プロフィール】
武政秀明(たけまさ・ひであき)/Webメディア編集長。1976年兵庫県神戸市生まれ。1998年関西大学総合情報学部卒。自動車セールスパーソン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年から東洋経済オンライン編集部。副編集長、編集長、編集部長を歴任。約12年間の在籍中に自身で7000本超のタイトルを考案してヒット記事を連発する一方、同期間にサイト全体で数万本に及んだ記事のアクセス傾向を徹底的に研究。読者の関心を大きく左右する記事タイトル=最初の言葉の作り方を独自に体系化する。東洋経済オンライン編集長時代の2020年5月には過去最高となる月間3億457万PVを記録。2023年5月にサンマーク出版へ転職後、SUNMARK WEBを立ち上げて編集長を務める。
