中国のタングステンフィラメントの生産ライン(吉安。Getty Images)
中国経済に精通する中国株投資の第一人者・田代尚機氏のプレミアム連載「チャイナ・リサーチ」。今回は中国が圧倒的シェアを握るタングステンの重要性についてレポートする。
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ハイパースケーラーによる巨額のAI設備投資が行き過ぎているかどうかは別として、将来的にAIは不可逆的、加速度的に社会に浸透し、それにつれてサーバー需要も増加するのは間違いないだろう。そうであれば、AI半導体チップに利用されるPCB(プリント基板)は、量だけでなく積層数も増加する。より厚いPCBに、より多くの微細な穴をあけるための切削工具が必要となるわけだが、現在その切削工具には超硬合金が使われている。その主成分はタングステン(タングステンカーバイド)である。
タングステンを成分として含む超硬合金は、AI半導体チップだけでなく、電気自動車に使われる電子部品、モバイル機器などのハイテク製品に使われるHDI基板などの加工にも使われる。そのほか、超高硬度、超高耐熱性、耐放射線性の機能材料などとして、航空、鉄道、エネルギー、国防などの産業で利用されている。今後、広範な産業で需要増加が期待できそうだ。
タングステンの生産量について国際比較データ(2021年、USGS)をみると、中国が圧倒的に多く、世界シェアは85%。第2位ベトナムの約15倍である。
トランプ政権による相互関税政策発動への対抗策として中国は、経済的価値が高く、圧倒的な生産量を誇るレアアースについて、供給をコントロールすることで外交政策上の「武器」としているが、経済的価値のあるレアメタルの中にも「武器」となる金属がある。そのひとつがタングステンである。
