議会に“リボルビングドア”が必要
――国会議員の同質性の高さは、以前より指摘されているところです。
伊藤:高齢男性が意思決定層の多数を占めているのは事実です。二世三世や有名人、高学歴ハイスペックや業界団体の利益代表者が多いことも否めません。ただ、それは選挙の結果です。
初出馬の際、「有権者は正しい。絶対に正しい。それを忘れないように」と恩人に教えられました。だから、こんなのおかしいと1人で言っていても、それはただの“愚痴”なのだと認識しています。でも不思議なことに2人で言うと“意見”になります。3人で言うと“兆し”になり、大勢で言うと“うねり”になる。うねりしか何かを変えることは出来ないから、だから今、2つのチャレンジをしています。
1つは議会における“リボルビングドア(回転ドア)”の推進です。
民間と政治のキャリアは地続きであるべきで、民間企業で培われた“当たり前感覚”を備えている人は、政治の世界でも間違いなく活躍できます。ただ、そういう人に限って、スカウトしてもお断りされることが多く、特に女性は難しいです。
お断りの理由を聞いてみると、「家族が許さない」や「ワークライフバランスが壊されそう」など、巷でよく言われているものに加え、「選挙に落ちたら子供が苛められる」「一度、政党色をつけてしまったら、その後のキャリアに悪影響がありそう」と異口同音に仰います。これはひとえに、今までの政治家が、落選後や引退後の実情やキャリアを積極的に開示してこなかったことが原因なのではないかと感じました。
そこで、元政治家たちの充実したキャリアを可視化するため、2023年に「一般社団法人リボルビングドア」と、国会内には「超党派議会におけるリボルビングドアを推進する議員連盟」を立ち上げました。
団体の活動を通じて、心配は杞憂に過ぎず、人生の一時期、政治家として働くことはポジティブであることの具体例を伝え、政治家とそれ以外の職業をまるで回転ドアのように行き来することが当たり前の社会を創ることを目指しています。
私は、政治家になったことで得られる推進力、人脈などのパワーを、それ以降のキャリアで活かすことは、よりよい社会を創ることに繋がると信じています。そうした新しいキャリアの形を見せることもまた、政治に縁もゆかりもないのに、政治家になり、ここまで育ててもらった私の努めなのだと感じています。
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伊藤氏が今、進めているもう一つのチャレンジとは──。【第2回へつづく】
【PROFILE】
伊藤孝惠/参議院議員(国民民主党)。1975年生まれ、名古屋市出身。参院国対委員長、コミュニケーション統括本部長、特命人事部長として、玉木雄一郎代表を支える。1998年、テレビ大阪入社。営業局を経て報道スポーツ局に配属。大阪府警記者クラブで事件事故を取材するかたわら、ドキュメンタリー番組を制作し、第1回TXNドキュメンタリー大賞受賞。2006年資生堂を経てリクルート入社。マーケティング局でマスメディアの買い付けや結婚情報誌等のCMを制作。2016年7月、同社在職育休中に公募から出馬、初当選。
大西康之/ジャーナリスト。1965年生まれ、愛知県出身。早稲田大学法学部卒業後、日本経済新聞社に入社。欧州総局(ロンドン)、編集委員、「日経ビジネス」編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の戦い――JAL再生にかけた経営者人生』『会社が消えた日――三洋電機10万人のそれから』(いずれも日経BP)、『ロケット・ササキ――ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)、『起業の天才!――江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(新潮文庫)、『最後の海賊――楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など。最新刊は『修羅場の王――企業の死と再生を司る「倒産弁護士」142日の記録』(ダイヤモンド社)。