過熱するクマ出没報道の弊害とは(EPA=時事)
昨今テレビを中心にクマ出没・クマによる被害報道が過熱している。駆除をした場合、その自治体やハンターには愛熊家ら抗議電話やメールが殺到し、業務が滞るケースもあるという。「もちろんクマ出没情報は大切な情報だと思うけど、報道が過熱することによる弊害も大きいのではないか」と懸念を示すのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。中川氏が行き過ぎたクマ出没報道に警鐘を鳴らす。
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クマ出没報道が多数の秋田県をめぐっては、こんなタイトルの記事も登場しました。
〈クマの目撃相次ぐ秋田市 影響は経済にも…商店街には客が激減「忘年会の問い合わせすらない まるでコロナ禍」〉(TBS NEWS DIG・11月29日)
記事によると、秋田市の繁華街から人が激減したとのこと。コロナの時、飲食店や繁華街は閑古鳥が鳴き、その時は補助金が出ましたが今回はまだそのような制度はありません。このまま連日クマ出没ニュースが出続けると、東北や北海道の繁華街・観光地から人が消える恐れがあります。実際、秋田はそのような事態になりつつあるようですし、イギリス政府は日本へ渡航する自国民に対してクマへの注意喚起を呼びかけています。
相次ぐクマ報道を見て思うのは、注意喚起は重要なものの、実態以上に恐怖を煽るのは違うのではないかということ。なにしろ、誰しも道を歩いていたら突然クマに出くわすかのような報道になっており、いかにクマが狂暴かを伝えるものが目立つ。狂暴なのは事実ですが、ある程度の警戒心を持ち、自治体やハンターの対応に任せる、ということで身の安全を守ろうという冷静な視点も必要ではないでしょうか。
ワールドカップ・五輪報道でマスコミは危機を煽り続けた
報道するメディアの側というのは恐怖を煽れば数字が取れるし、それが社会貢献につながっていると自負するようなところもあります。クマ出没報道と同列に並べるのに異論はあるかもしれませんが、私が思い出すのが、これまでのFIFAワールドカップや五輪関連の報道です。とにかくマスコミは、危険と失敗を訴え続けるんですよ……。ザッと振り返ってみましょう。
【FIFAワールドカップ】
・日韓大会(2002年):イングランドからフーリガンが大量に押し寄せてくる。最も危険なXデーは埼玉スタジアムでのスウェーデン戦。グループFはイングランドとスウェーデンとアルゼンチンとナイジェリア。イングランドとスウェーデンは同じEU圏内ということで因縁があり、この試合は観客が大暴れをする恐れも。
・南アフリカ大会(2010年):ヨハネスブルクは世界最高クラスの危険な街。凶悪犯罪のみならず、殺人率世界トップクラスであり、もはや夜は出歩いてはいけないレベルで危険である。
・ブラジル大会(2014年):リオデジャネイロのファベーラ(スラム街)は危険で、ここから観戦者を狙って、ならず者のギャング団たちが続々やってくる。命を守るため両手を挙げ、抵抗せずに財布やスマホは黙って差し出すべし。
【五輪】
・アテネ五輪(2004年):ギリシャ人は呑気過ぎ、施設の工事も交通も間に合わない可能性がある。
・北京五輪(2008年):当時は中国のニセディズニーランド風テーマパーク等が取り上げられ、何事もパクるのでは、といった懸念があった。
・平昌冬季五輪(2018年):とにかく寒過ぎて凍死する人すら出てくるかもしれない。また、簡易的なメインスタジアムの観客席の耐性には不安がある。崩れてしまうかもしれない。
・東京五輪(2020年 ※実施は2021年):世界中から人が来るため、コロナウイルスのハイブリッド型極悪株が爆誕する恐れ。
……私自身もメディア界に従事する人間なのでよく分かるのですが、メディア人ってとにかく「ちゃんと注意喚起した」という既成事実を作りたいものなんですよ。我々が事前に危機を想定し、伝えたため尊い命が守られた──、このようなストーリーを使命感として持っている人もいます。そのことでむしろ、視聴者・読者に余計な心配を与え、行動を委縮させることの方が多いのかな、とも思います。
