アリババグループが投入した「Quark AI Glasses」(Getty Images)
中国経済に精通する中国株投資の第一人者・田代尚機氏のプレミアム連載「チャイナ・リサーチ」。今回はアリババグループのAI事業展開の最前線についてレポートする。
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アリババグループは11月17日、スマートフォン(スマホ)、PCなどにダウンロードして無料で使えるAIアプリについて、バージョンアップした上で名称を「同義」から「千問」に改め、リニューアル公開した。ビジネス向けサービスとして自社開発したQwen3-Maxを個人向けサービスにも展開。中国語に関する総合能力では世界トップクラス、数学、コーディングなど一部のベンチマークではオープンAIのChatGPT-4o、アンソロピックのClaudeに次ぐ性能を有する「千問」とあって、公開から1週間で1000万件を超すダウンロードとなり、グローバルでAIアプリによる最速記録となった。
「千問」は、ただ単に質問に答えてくれるだけでなく、個人向けECの「淘宝」、食品デリバリーサービスを展開する「餓了麼」、ナビゲーションサービスを提供する「高徳」といったアリババ系消費関連企業への接続が可能で、学習、教育支援を含め、生活のほとんどのシーンで活用できる。また、文章、パワーポイントの作成支援、音声からの文字起こし、文字・音声・画像情報の整理など、ビジネスでも使える。
グループ初となるAIグラス「Quark AI Glasses」
アリババグループはAIのレベルアップに加え、アプリを起動させるハードウエアについても独自開発を進めている。11月27日にはグループ初となるAIグラス「Quark AI Glasses」(「千問」搭載、2シリーズ、6種類)の詳細情報を公表した。予約販売については詳細発表前となる10月24日から、実際の出荷は12月8日から始まっている。
「Quark AI Glasses」の主な用途を示すと、室内での外国語文章の閲読に限らず、海外での骨伝導イヤホンを通した現地人との会話や、街角の標識、レストランのメニュー解読など屋外空間でのリアルタイム翻訳ができたり、ナビゲーション・周辺施設の検索、ショッピング情報の取得、決済(ただし、支付宝)などが可能で、キーボードに替わり音声を使って入力したり、会議の音声情報を記録してそれを直接文章化したりすることもできる。最新のAIスマホで出来ることは全てやってしまおうという設計意図の製品だ。
価格はディスプレイ無しの軽量モデル「G1」で1899元~、ディスプレイ付きの「S1」で3799元~である。値段の高い後者でも中級スマホ並みに抑えられている。ユーザーの立場からすれば、慣れないうちはスマホとの併用となるだろうが、ユーザーサイドでの習熟度の高まりに品質向上が加われば、いずれはスマホを代替する製品となる可能性もありそうだ。
