複雑なことを要求する慶應幼稚舎
小学校入試における「行動観察」とはなにか? 私は「受験生に自由に遊ばせてその様子を観察するもの」と思っていたが、実際には違う。指示通りに行動ができるかを見る試験だ。
たとえば、先生が音楽に合わせてダンスをする。それを真似て踊る試験。記憶力が問われる。また、チームを組んで行動させる試験も多い。紙コップで高いタワーを作ったり、お手玉を投げ入れたりして、グループで競わせることもある。
トレーニングしていない子供だとお手玉を投げたり、天井にぶつけたりして遊び出すだろう。それだと試験には通らない。しっかりと大人の指示に従う必要があるのだ。
この行動観察にも難易度があり、その中で最も難易度が高いのが慶應の幼稚舎の行動観察である。
ペーパー試験がしっかりある小学校の場合、行動観察では「大人のいう通りに行動ができるか」「他の受験生への配慮ができるか、コミュニケーションがとれるか」という部分を重視する。つまり、「小学校に入ってきちんと集団学習ができるか」を確認する。
ところが慶應の行動観察はもっと複雑なことを要求するのだ。チームを組ませ、対抗戦をさせる。たとえば、ボールを投げて目標に当てるゲームをチーム対抗戦で行う場合、「どうしたらチームで勝てるか」が重要になってくる。その場合、まず、2周やれば「ボールを的に当てるのがうまい子」が分かる。その子に複数回、投げさせればチームとして勝利に近くなる。こういった戦略を皆で考える力も問われる。
また、絵画制作が課される。ここで問われるのは絵のうまさよりも、その絵を説明する時の表現力や語彙力、他の受験生に質問する能力だ。
たとえば、家を描かせるとしよう。その場合、他の受験生の絵を見て、「住みにくそうな家」と正直な感想をいわず、「中はどうなっているの? キッチンは大きいの?」と具体的に会話が拡がるような質問ができる必要がある。
女子の方がリードをしているシーンが多い
大人の目から見て、いかに「良い子」を演じられるかが問われているようにも映る。
こういった小学校受験の対策の授業を見ていると、2010年放送の『Mother』(日本テレビ系)というドラマで当時6歳だった芦田愛菜の演技を見た時のことを思い出す。
なぜ、6歳の幼児が台詞を覚えて、大人の指示どおりに演じることができるのか。どうしたらこんなに子供が大人のいう通りに動くのか。不思議でならなかったが、それをやってのける幼児が沢山いるのが小学校受験の世界なのだ。女子の方が成長が早いといわれる理由も分かる。女子の方がリードをしているシーンが多い。
今回は慶應の幼稚舎の小学校入試について言及した。ペーパー試験がない分、行動観察のハードルが高いのだ。次回は最後に結局どういう子が小学校受験に合うかということと、小学校受験対策の教室について書いていきたい。
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【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(ともに青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。