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中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

財布を忘れて九州から上京した50代ガラケー男性が実感した“時代の変化” 東京の交通機関は「頭を下げれば、なんとかなる」の過去の経験が通用せずに四苦八苦

ピンクのガラケーを手にする筆者

ピンクのガラケーを手にする筆者

かつては「後で返してくれるなら」と乗せてもらえた

 残額78円しかないのに、どうして羽田空港から渋谷まで行けると考えたのか? それはかつての私自身の経験に起因するものでした。

 2001年、私は東京・新富町から東京メトロ(当時は営団地下鉄)有楽町線に酔っ払って乗り、気づいたときにはなぜか東武東上線の朝霞駅の商店街のゴミ箱に埋もれているという経験をしました。この時は、持っていた巾着袋を失い、財布も無くしていた。その旨を朝霞駅の職員に伝えたところ、「お金返してくれるら乗っていいっすよ」と言われ、朝霞から隣の有楽町線和光駅へ。同様の話をしたら「後で返してくれるなら、いいっすよ」とメトロの職員からも言われ、そのまま自宅最寄り駅の東急田園都市線・池尻大橋駅まで行ったのです。

 池尻大橋の改札では、職員に「後でお金を持ってきますので、なにとぞ通過させてください」とお願いをし、自宅へ。その後をお金をもって、まずは池尻大橋の駅に行ってメトロの運賃を支払い、その後JR渋谷駅で朝霞→和光市の運賃を払った。

 こんな経験をしたことがあるので、「東京の交通機関なら、後でお金を払うと約束して、頭を下げればなんとかなる」と思っていたのです。

巡査から言われた「警察ってのは最後の手段です」

 さて、所持金78円という状況で羽田空港の駅で京急の職員に「渋谷まで行けば、弊社社員からお金が借りられるので、なんとか電車に乗せてもらえませんでしょうか?」と尋ねたら、「切符を買わない人間を乗せることはできない。交番に相談してください」と言われた。

 そこで羽田空港第一ターミナルの交番に行きました。渋谷までの電車代を貸していただけませんでしょうか、というお願いをしたのです。巡査はこう言いました。

「あなたは今、78円持っているのですね。渋谷までは510円です。442円貸せばいいのかもしれませんが、警察ってのは最後の手段です。あなたは借金をできる相手がいるんですよね? なんだったらタクシーで渋谷まで行き、そこであなたの会社の社員にタクシー代を払ってもらい、そのうえでお金を貸してもらえばいいじゃないですか」

 グウの音も出ない正論です。しかし、羽田から渋谷にタクシーで行く場合、タクシー代は1万円ぐらいはかかるうえに、渋滞に巻き込まれるリスクもある。この後に神楽坂でインタビューをする仕事があったのですが、それに間に合わない可能性があった。巡査にそうした旨を伝えたうえで、社員の電話番号を伝え、「お代官様、頼みますだー!」的にお願いをし、借用書的なものにカネを借りる理由を書いたうえで、450円を貸してもらいました。

お金を貸していただきました

お金を貸していただきました

渋谷の交番前で社員を待つ筆者

渋谷の交番前で社員を待つ筆者

 かくしてなんとか渋谷に辿り着いて、そこで弊社社員から2万5000円を借りた私は、その後の東京出張期間を乗り切ることができました。羽田空港の交番で借りた450円は、すぐに渋谷駅の交番で返却しました。

借りたお金で早速返金

借りたお金で早速返金

 こうした経験をして思ったのは、「もはや世間はスマホ対応でガラケー人生は無理なのでは」ということ。先月タイへ旅行に行ったのですが、タイ入国にあたっては、スマホで個人情報を入力し、QRコードを作ってそれを入国審査の際に提出しなくてはいけないのです。

 この時は妻が私の分も含めて発行してくれたため、事なきを得ましたが、自分一人だったら入国できず、たらいまわしにされて時間だけが過ぎていたと思われます。もはやガラケー人間はこの世で普通に生きることは難しいんだな、と思い知らされた次第です。まぁ、「ちゃんとカネを返せばなんとかなる」という2000年代前半までの空気感があまりにも呑気で優し過ぎたというだけの話ではありますが。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は稲熊均氏との共著『ウソは真実の6倍の速さで拡散する』(中日新聞社)。

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