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医心伝身プラス 名医からのアドバイス

【膝痛治療の最前線】身体へのダメージが少ない低侵襲の膝軟骨再生治療とは? 海藻由来成分を使った「細胞を使わない再生治療」への取り組み【専門医が解説】

損傷した膝軟骨の内視鏡画像

損傷した膝軟骨の内視鏡画像

負担が少ない「細胞を使わない軟骨修復治療」

 従来の治療法に加えて、膝軟骨の再生のために私は、2008年からより簡便に1回の手術で終わり、身体へのダメージが少ない低侵襲(しんしゅう)の治療法の研究を始めました。

 再生治療はヒトの細胞を使って行なうことが一般的ですが、膝軟骨の場合は細胞採取のためにかなり大きく切開する手術が必要となります。さらに、体外での細胞増殖には個人差があり、採取できる細胞の数にもバラつきがあります。これら患者さんの負担を少なくするために「細胞を使わずに治療できないか」と考えた結果、細胞が再生するための「足場」を先に作り、そこに自らの細胞を集積させて軟骨を再生するというアイデアを思いつきました。足場は建物でいえば土台にあたるもので、そこの細胞を集めることで組織を再生させる仕組みです。

 軟骨組織の細胞は元々数が少ないのですが、軟骨の下には骨髄があり骨髄液の中には、軟骨になりうる細胞が数多く含まれています。この骨髄にある細胞を足場に引き込むことができれば、軟骨再生が可能になるはずです。つまり、「質の高い足場を作り、軟骨になりうる細胞を引き込んで、良好な軟骨組織を再構築する」という考え方です。

 足場には簡便に注入できる粘性成分が適していると考えました。粘性があり体に親和性があるという特質を持つ成分はいくつか発見されていましたが、私は「アルギン酸」に着目しました。アルギン酸には軟骨特有の成分が多く含まれているうえ、昆布などの海藻などから抽出される成分であるため、動物由来の細菌やウイルスによる感染リスクがありません。海藻が原料なので比較的手に入りやすいということもあり、足場用ゲルの材料としてアルギン酸を使用することにしました。

関節鏡を使った膝軟骨再生手術

関節鏡を使った膝軟骨再生手術

難題を乗り越えて開発された最新医療機器

 ところが、ここでひとつ問題がありました。海藻から採取したアルギン酸は自然由来のものなので、体内に入ると異物反応で炎症を起こす「エンドトキシン」という成分がかなり含まれているのです。そのまま体内に入れると炎症反応が起こるため、それをいかに取り除くかが課題でしたが、ある国内企業が炎症成分を取り除く技術を開発し、「低エンドトキシン化高純度アルギン酸」が誕生しました。

 細胞が再生するための足場となるには、細胞が侵入して増殖する間、その場に足場が留まり続ける必要があります。従来の再生治療では、培養した軟骨細胞を移植する際に流れ出ないように、骨膜や人工の膜で表面を覆っています。しかし、開発された低エンドトキシン化高純度アルギン酸は、粘性はあるものの、損傷した軟骨に注入しただけでは流れ出てしまうという性質がありました。

 この問題を解決したのは塩化カルシウム溶液でした。塩化カルシウム溶液は表面をゲル化する性質を持っているので、これを利用することで足場が流れるのを防ぐことができ、関節鏡を使って移植することが可能となりました。非臨床試験や臨床試験を経て安全性と有効性が確認され、2025年7月に軟骨を修復する国内初の医療機器である軟骨修復材「モチジェル」としての製造販売承認を取得し、同年12月から保険適用での臨床利用が始まっています。

軟骨組織の再生を可能にした軟骨修復材「モチジェル」

軟骨組織の再生を可能にした軟骨修復材「モチジェル」

■後編記事につづく:【膝痛治療の最前線】「人工関節」は「人生100年時代」で再手術のリスクも 関節鏡による「注いで固める」軟骨再生治療への期待【専門医が解説】

「膝軟骨の再生のために私は、2008年から1回の手術で終わる治療法の研究を始めました」と語る岩崎倫政教授

「膝軟骨の再生のために私は、2008年から1回の手術で終わる治療法の研究を始めました」と語る岩崎倫政教授

【プロフィール】
岩崎倫政(いわさき・のりまさ)/北海道大学大学院医学研究院 機能再生医学分野整形外科学教室教授。 1988年旭川医科大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科修了、医学博士。米国ジョンズ・ホプキンス大学整形外科への留学を経て、2010年より現職。専門分野は上肢外科、スポーツ整形外科、軟骨再生、バイオメカニクスなど多岐にわたる。長年にわたり運動器疾患の治療と研究に従事し、軟骨代謝やバイオマテリアルを用いた再生医療の最先端研究を推進。現在は、機能再生医学の発展と次世代の整形外科医の育成に尽力している。

取材・文/岩城レイ子

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