こうした実態に対し、専門家からも厳しい批判が上がっている。エネルギー経済学を専門とする桃山学院大学の小嶌正稔教授は、毎日新聞(2026年3月19日付)の取材に対して、現行の補助金政策を「政府がガソリン価格の水準を決めるなど、価格を線引きしてはいけない」「財源をいくら使うか分からない政策は、稚拙で無責任だ」と断じている。
自由経済において、価格の高騰は決して単なる「悪」ではない。それは消費者に対して「需要の抑制(ガソリンの節約)」を促す、極めて重要な市場からの「シグナル」である。政府が巨額の税金を投じて人為的に170円という価格キャップ(上限)を設ける行為は、このシグナルをかき消し、本来起こるべきマクロ経済の構造転換を阻害する。
諸外国の危機対応を見れば日本の非合理性は一目瞭然
日本がいかに特異で非合理な政策に固執しているかは、他国の危機対応を見れば一目瞭然である。
イラン危機に直面した欧州諸国は、市場を歪める不透明な企業向け補助金ではなく、「税の減免」を選択した。スペインはエネルギー全般の付加価値税(VAT)を21%から10%へ引き下げ、アイルランドも物品税を直接減税している。減税は、市場の価格決定メカニズムを維持したまま、消費者へ確実に恩恵を届けることができる極めて透明性の高い手法である。
さらに、国際エネルギー機関(IEA)加盟国は過去最大規模となる合計4億バレルの戦略石油備蓄の放出を実施し、物理的な供給不足の解消に動いている。また、一部のアジア諸国では在宅勤務の推奨など、価格シグナルを活かした需要抑制策を政策の柱に据えている。
対照的に日本は、透明性の高い「ガソリン減税」というカードを切りたがらず、効果測定すら不可能な元売りへの青天井の補助金に固執している。「30.2円を出して13.1円しか下がらない」という非効率を放置したまま、既存の利権構造である石油業界に巨額の公金を流し続ける様は、経済合理性の観点から見て到底正当化できるものではない。
ガソリン価格の高騰による国民生活への打撃を緩和する必要があるならば、採るべき手段は一つである。不透明な「中抜き」の温床となる元売りへの補助金を即刻停止し、市場価格と連動する「減税」へと政策を転換することだ。
市場経済の原則を無視したバラマキは、最終的に増税や国債増発という形で国民のツケとなる。30.2円と13.1円の間に横たわる“17.1円の闇”を直視し、経済合理性に基づいた政策の再構築が急務であろう。
【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。