イタリアは約1500もの“小さなエンジン”がある(イラスト/井川泰年)
円安は輸出企業にはプラスと言われてきたが、昨年下半期の輸出額を見ると、日本はイタリア、韓国にも抜かれ、世界5位から7位に転落している。円安が続くにもかかわらず、輸出が伸び悩んでいるのはなぜか。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本ならではの構造的問題を解き明かす。
物価高が続いて円の価値も上がらない悪循環
「日本円」の購買力が下がり続けている。為替の名目レートは1ドル=160円前後の円安(本稿執筆時点)だが、円で海外の商品を買う購買力=円の強さを示す「実質実効為替レート」はさらに大きく下落している。
国際決済銀行(BIS)によれば、今年1月時点の実質実効為替レートは1973年の変動相場制度移行以来、最も安い水準になった。円が最も強かった1995年に比べると、購買力は3分の1。つまり、同額の円では30年前の3分の1しか海外の商品を買えなくなってしまったのである。
だから輸入品はどんどん高くなり、アメリカとイランの戦争による原油高が、いっそう物価を押し上げている。高市早苗首相は昨年11月に閣議決定した総額21.3兆円の総合経済対策について「物価高への対策を最優先に強い経済を実現する」と述べたが、スローガンの「責任ある積極財政」で予算をバラまいたら、かえって物価高を招くだろう。
一方、日本銀行は中東情勢などの影響で物価上昇を抑える利上げに踏み切れずにいるため、このままでは物価高が続いて円の価値も上がらないという悪循環に陥りかねない。いわゆる“負のスパイラル”だ。
円安は輸出企業にプラスと言われるが、2025年の貿易統計速報によると、輸出額は110兆4480億円で、前年比3.1%の増加でしかなかった。この数字はドル建て換算だと目減りするため、昨年下半期の輸出額で日本はイタリア、韓国に抜かれて世界5位から7位に転落した。OECD(経済協力開発機構)の統計では、イタリアが3766億ドルで5位、韓国が3711億ドルで6位、日本が3705億ドルで7位。イタリアが半期ベースの輸出額で日本を上回ったのは半世紀ぶりのことである。
イタリアの人口は約6000万人で日本の5割弱、GDP(国内総生産)は約2兆5400億ドルで日本の6割ほどだ。そういう国に日本は輸出額で抜かれてしまったのである。
だが、私は全く驚かない。至極当然だからである。
